幸帽児とは?読み方・発生確率8万分の1と2026年の救急対応を徹底解説
幸帽児(こうぼうじ)とは、赤ちゃんが母親のおなかの中にいたときに包まれていた卵膜を破らず、そのままの状態で生まれてくること、またはそのように出生した赤ちゃんを指す言葉です。通常の出産では、赤ちゃんが生まれる前に破水しますが、幸帽児の場合は破水しないまま娩出されるため、透明な膜に包まれた状態で誕生します。
自然分娩での発生頻度は約8万出生に1例とされる非常に珍しい現象です。一方、2026年3月に公表された救急振興財団の「病院前周産期救護の現状と教育のあり方に関する検討」では、2024年の施設外分娩で9例が確認されました。さらに、2026年7月9日の厚生労働省の検討会では、救急救命士が幸帽児に対して卵膜を破る処置を実施できるようにする方針が了承されています。
珍しい出産現象として知られる幸帽児ですが、実は出生直後の呼吸確保や救急医療の制度整備にも関係する重要なテーマです。読み方、被膜児との違い、卵膜の仕組み、帝王切開との関係、2024年の調査結果、2026年10月時点の最新の制度動向まで詳しく解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 幸帽児の意味:破水せず、卵膜に包まれたまま生まれた赤ちゃんのこと。読み方は「こうぼうじ」。
- 発生確率:自然分娩では約8万出生に1例とされるが、2024年の施設外分娩調査では判明例の1.7%に確認された。
- 出生後のリスク:顔が卵膜で覆われたままでは肺呼吸が妨げられるため、速やかな卵膜除去が必要になる。
- 2026年の制度動向:厚生労働省の検討会が医師の包括的指示の下での破膜を了承。10月7日時点では通知の発出に向けた準備段階にある。
【基本知識】幸帽児とは?読み方や被膜児との違いを解説

幸帽児の読み方は「こうぼうじ」
幸帽児は「こうぼうじ」と読みます。「幸せ」の幸、「帽子」の帽、「児童」の児を組み合わせた医学用語です。
英語では、胎児が卵膜に包まれたまま出生する状態を「En Caul Birth(エン・コール・バース)」と呼びます。日本語では幸帽児分娩、被膜児分娩などと表現されます。
通常の出産では、陣痛が進むにつれて卵膜が破れ、羊水が流れ出る破水が起こります。しかし、幸帽児では卵膜が破れないまま赤ちゃんが娩出されます。
その結果、赤ちゃんは透明あるいは半透明の膜に包まれた姿で生まれてきます。膜の内側には羊水が残っていることもあり、赤ちゃんが母親の胎内にいたときの環境を保ったような外観になります。
幸帽児は非常に珍しいものの、それ自体が先天性疾患や身体の異常を意味するわけではありません。出生後の呼吸状態や体温、全身状態などを適切に評価することが大切です。
幸帽児と被膜児に違いはある?
幸帽児と被膜児は、基本的に同じ現象を指す言葉です。
「被膜児(ひまくじ)」は、卵膜に覆われた状態で出生した赤ちゃんを表す説明的な名称です。一方、「幸帽児」は、同じ状態を表す医学・産科領域で使用される名称として知られています。
2020年に日本救急医学会関東地方会雑誌に掲載された症例報告でも、幸帽児は被膜児とも呼ばれ、破水せず卵膜に包まれたまま出生した新生児と説明されています。
したがって、両者を別々の病気や異なる出産方法として理解する必要はありません。
幸帽児は赤ちゃんにとって幸運の証なのか
「幸せ」という漢字が使われているため、幸帽児は縁起のよい出産なのではないかと考える人もいます。
しかし、名称の印象と医学的な評価は分けて考える必要があります。卵膜に包まれて生まれること自体が、赤ちゃんの将来の健康や幸福を保証するわけではありません。
出生直後に顔が卵膜で覆われている場合は、呼吸ができない危険性があります。見た目の珍しさよりも、まず赤ちゃんの生命を守るための対応が優先されます。
【卵膜の仕組み】なぜ破水しないまま赤ちゃんが生まれるのか
赤ちゃんを包んでいる卵膜とは
卵膜とは、胎児を包んで保護する膜の総称です。主に羊膜と絨毛膜から構成され、その内側には羊水があります。
羊水は胎児の周囲を満たし、外部からの衝撃を和らげるほか、胎児が成長するための環境を保つ役割を担っています。
妊娠中、赤ちゃんは胎盤と臍帯(へその緒)を通じて酸素や栄養を受け取っています。母親の胎内では肺呼吸をしているわけではなく、胎盤を介したガス交換によって生命を維持しています。
分娩が進むと、陣痛によって子宮内の圧力が高まり、卵膜が破れて羊水が流れ出ます。これが一般に知られる破水です。
破水しない出産が起こる仕組み
幸帽児が生まれるのは、分娩が進行しても卵膜が破綻せず、赤ちゃんが膜に包まれたまま娩出されるためです。
通常の分娩では、子宮収縮や子宮口の開大などに伴って卵膜に圧力が加わり、破水が起こります。しかし、まれに卵膜が保たれたまま赤ちゃんが外に出てくることがあります。
この現象は自然に起こることがあり、必ずしも特別な病気や異常が原因というわけではありません。
ただし、幸帽児になる理由を一つの要因だけで説明することはできません。妊娠週数、分娩経過、卵膜の状態など、個々の条件が関係します。
幸帽児が生まれた後に起こる重要な変化
幸帽児の出生で最も注意すべきなのは、赤ちゃんが胎内から外の世界へ移行するタイミングです。
出生前は胎盤と臍帯を介して酸素が供給されています。しかし、通常の分娩で赤ちゃんが娩出される際には胎盤も剝離するため、胎盤からの酸素供給が失われ、自分の肺で呼吸する必要があります。
ところが、鼻や口の周囲が卵膜で塞がれたままだと、空気を取り込めません。そのため、赤ちゃんの顔を覆っている膜を速やかに取り除き、呼吸できる状態にする必要があります。
幸帽児は、単に珍しい姿で生まれるという現象ではなく、出生直後の呼吸管理が必要になる可能性を持つ分娩なのです。
【発生確率と調査結果】約8万分の1と2024年の9例を比較
自然分娩における幸帽児の発生確率
幸帽児の自然分娩における発生頻度は、一般に約8万出生に1例とされています。
これは非常に低い割合であり、通常の産科医療や救急医療に携わる人でも、実際に遭遇する機会が限られる現象です。
2026年7月9日の厚生労働省「第2回救急救命処置の在り方に関する検討会」でも、幸帽児は約8万件に1件という極めてまれな事例として議論されました。
一方、自然分娩全体の発生率と、病院の外で起きた分娩における発生率は、分母が異なるため単純に比較できません。
2024年の施設外分娩調査では9例を確認
注目されるのが、一般財団法人救急振興財団の助成を受けて実施された令和7年度の調査研究です。
日本赤十字社水戸赤十字病院小児科の宮園弥生氏が研究代表者を務めた「病院前周産期救護の現状と教育のあり方に関する検討」は、2026年3月に公表されました。
この研究では、国内の消防本部を対象に、2024年の施設外分娩や新生児への対応状況などを調査しています。
消防本部から報告された2024年の施設外分娩症例は651例でした。そのうち、幸帽児だったことが確認できたのは9例です。
幸帽児ではなかった児が510例、幸帽児かどうか不明だった児が132例でした。つまり、幸帽児かどうか判明している519例を分母にすると、9例は約1.7%に相当します。
ここで重要なのは、1.7%という数字が日本国内の全出生に対する発生率ではないことです。あくまで、調査で把握された施設外分娩のうち、幸帽児かどうか判明した症例に限った割合です。
2024年の幸帽児に関する調査データ
| 調査項目 | 結果 | 意味・注意点 |
|---|---|---|
| 自然分娩の発生頻度 | 約8万出生に1例 | 一般に示される発生頻度 |
| 2024年の施設外分娩 | 651例 | 消防本部調査で把握された症例数 |
| 幸帽児の確認例 | 9例 | 消防本部からの報告 |
| 幸帽児ではなかった児 | 510例 | 調査上の確認例 |
| 状態不明 | 132例 | 幸帽児かどうか判定できなかった症例 |
| 判明例に占める幸帽児の割合 | 約1.7% | 9例÷519例 |
| 救急隊の判断で卵膜除去 | 5例 | 救急隊の判断で処置 |
| 搬送先医師の指示による卵膜除去 | 4例 | 医師の指示を受けて処置 |
さらに、この研究では周産期母子医療センターの医師にも調査を実施しています。
2024年の幸帽児について、産科医の調査では126例中2例、新生児科医の調査では191例中3例が報告されました。いずれも約1.6%です。
消防本部、産科医、新生児科医からの報告は、報告元の都道府県に重複がなく、近隣県同士でもなかったことから、研究では2024年に国内で少なくとも14例の幸帽児が発生したと推定しています。
これは、自然分娩における約8万分の1という発生頻度と矛盾するものではありません。調査対象が施設外分娩や周産期母子医療センターに限定されているためです。
また、従来の全国調査では幸帽児の有無を独立した質問項目として設けていませんでした。今回の研究は、施設外分娩における幸帽児の実態を把握するための重要な基礎資料となっています。
【出生後の呼吸リスク】なぜ幸帽児には速やかな破膜が必要なのか
卵膜が顔を覆うと肺呼吸が妨げられる
赤ちゃんは出生すると、胎盤を介した酸素供給から肺呼吸へ移行します。
通常の新生児では、出生後に肺へ空気を取り込み、子宮外の環境に適応していきます。しかし幸帽児の場合、鼻や口の周囲が卵膜で覆われていると、空気を取り込むことができません。
その状態が続けば、低酸素状態に陥る危険性があります。重症化すれば死亡や高次脳機能障害などの深刻な結果につながるおそれもあります。
厚生労働省の2026年7月の検討会でも、出生後に卵膜で覆われたままでは呼吸ができず、速やかな破膜が救命のために必要であると説明されました。
破膜処置は赤ちゃんの呼吸を確保するためのもの
幸帽児に対する破膜処置は、出生後に赤ちゃんの呼吸を妨げている卵膜を取り除くための処置です。
厚生労働省が2026年の検討会で示した対象は、主に次の2つの状態です。
- 赤ちゃんの全身が卵膜に包まれたまま娩出された状態。
- 出生後に卵膜の一部が顔面に残り、呼吸を妨げる可能性がある状態。
検討会の説明では、出生後30~60秒程度という非常に短い時間で対応する必要があるとされました。医師の具体的な指示を待っている間にも時間が経過する可能性があるため、医師の包括的指示の下で対応できる仕組みが検討されています。
なお、破膜は赤ちゃんの状態を確認したうえで、適切な教育を受けた医療従事者が安全管理の下で行う救命処置です。一般の人が独自の判断で医療器具を使用することを勧めるものではありません。
出生前の人工破膜とは目的もタイミングも違う
幸帽児の破膜を理解するうえで、特に重要なのが「人工破膜」との違いです。
通常の産科医療でいう人工破膜は、赤ちゃんが生まれる前に、分娩を促進する目的などで医療者が卵膜を破る処置です。
一方、幸帽児に対する破膜は、すでに赤ちゃんが娩出された後、呼吸を確保するために卵膜を取り除く処置です。
両者は同じように卵膜を破る行為ですが、実施するタイミングも医学的な目的も異なります。
出生前の人工破膜には、臍帯脱出などの重大な合併症につながるリスクがあります。そのため、幸帽児に対する出生後の卵膜除去と混同してはいけません。
令和7年度の厚生労働科学研究でも、この2つを明確に区別する必要性が指摘されています。
帝王切開でも幸帽児は生まれる?
幸帽児は自然分娩だけでなく、帝王切開でも起こり得ます。
産科医療には、卵膜をできるだけ温存したまま赤ちゃんを娩出する「卵膜温存帝王切開法」、いわゆる幸帽児帝王切開法(En Caul Cesarean Section)があります。
この方法は、特に超早産児など、外部からの機械的刺激やストレスに弱い赤ちゃんをできるだけ穏やかな環境で娩出させることを目的として検討・実施されてきました。
日本産婦人科医会の超早産児の帝王切開に関する解説でも、完全被膜児娩出や部分被膜児娩出など、卵膜を温存した娩出方法が紹介されています。
ただし、予定された帝王切開による幸帽児と、救急車内や自宅などで偶発的に発生する幸帽児は、医療環境が大きく異なります。
手術室では産科医と新生児科医が連携し、出生後の破膜や蘇生に対応できる体制を整えられます。一方、施設外分娩では専門家がすぐにそばにいるとは限らず、救急隊が迅速な判断を求められることがあります。
【2026年最新】厚生労働省が進める幸帽児への救急救命士の対応
なぜ救急救命士による破膜が問題になったのか
幸帽児への対応で長年課題となっていたのが、救急救命士が卵膜を破る処置を行えるのかという法制度上の問題です。
救急救命士は、病院に到着する前の救急現場や搬送中に、法律や通知で定められた範囲の救急救命処置を実施します。しかし、従来の救急救命処置の範囲には、幸帽児に対する卵膜の破膜が明確に位置づけられていませんでした。
そのため、目の前に呼吸を妨げられている赤ちゃんがいても、救急救命士が処置を行ってよいのか判断に迷う状況が生まれていました。
実際、2020年には日本救急医学会関東地方会雑誌に、救急救命士が救急現場で幸帽児の破膜処置を行った症例が報告されています。
この症例は、妊娠36週の30代女性が救急要請し、観察開始から約17分後に赤ちゃんが卵膜に包まれたまま出生した事例です。救急救命士が破膜を実施し、産婦人科医を交えた事後検証では、救命のために迅速に対応した判断と処置は適切だったと評価されました。
一方、当時の制度では破膜処置が明確に認められておらず、救急救命士法との関係が問題になりました。
2026年7月9日の厚生労働省検討会で方向性を了承
大きな転機となったのが、2026年3月から開催されている厚生労働省の「救急救命処置の在り方に関する検討会」です。
2026年7月9日に開催された第2回検討会では、幸帽児に対する卵膜の破膜について具体的な議論が行われました。
厚生労働省の事務局は、出生後の幸帽児は卵膜に覆われたままだと呼吸ができず、低酸素による死亡や高次機能障害につながるおそれがあると説明しました。
そのうえで、医師の具体的な指示を待つのではなく、医師の包括的指示の下で救急救命士が対応できるようにする方向性が提案されました。
委員からは、処置の必要性を認める意見が相次ぐ一方、極めてまれな事例であることから、教育研修や技術の維持、安全管理の重要性も指摘されました。
最終的に、幸帽児に対する卵膜の破膜を救急救命処置の一つとして明示する方向性について、構成員の了承が得られました。
2026年10月7日時点では通知発出に向けた準備段階
2026年10月31日時点で特に重要なのが、検討会での了承と、実際に全国の救急現場で処置が認められることは同じではないという点です。
厚生労働省が公表した第3回検討会(2026年10月7日)の資料では、幸帽児に対する卵膜の用手的な破膜について、次の経緯が示されています。
- 2024年:厚生労働科学研究で文献調査を実施。
- 2025年:適応、プロトコール、処置手順書、必要な教育について検討。
- 2026年:研究結果を検討会に報告。
- 2026年7月:第2回検討会で了承。
- 2026年10月7日:通知発出に向けて準備中。
つまり、2026年7月に方向性が了承されたことは確かですが、10月7日の厚生労働省資料では、通知の発出に向けた準備段階とされています。
そのため、2026年10月31日現在、検討会で了承されたことだけを根拠に、全国の救急救命士がすでに自由に破膜できるようになったと理解するのは正確ではありません。実際の運用には、正式な通知や適用される制度・地域のプロトコールの確認が必要です。
救急救命士に求められる教育と安全管理
厚生労働省の検討会では、処置を認めるだけでなく、救急救命士が適切に対応できる教育体制の整備も重要な論点になりました。
特に、以下のような知識と能力が必要とされています。
- 幸帽児と通常の新生児の状態を見分ける知識。
- 対象となる症例と対象外となる症例の理解。
- 卵膜の構造や性質に関する基礎知識。
- 破膜に伴う赤ちゃんの皮膚・軟部組織損傷を防ぐ安全管理。
- 新生児蘇生に関する知識と実技。
- 医師やメディカルコントロール協議会との連携。
また、厚生労働省の説明では、写真や動画を活用した視覚的な教育、標準化された教材、産科医や助産師など周産期医療の専門家による助言も想定されています。
約8万出生に1例という希少性を考えると、通常の救急現場で経験を積み重ねるだけでは技術を維持することが難しいという問題があります。定期的な研修やシミュレーション、症例の事後検証が重要になる理由です。
【現場の課題】施設外分娩と新生児蘇生をめぐる問題
救急隊が対応する施設外分娩の実態
施設外分娩とは、病院や診療所などの分娩施設に到着する前に、自宅や救急車内などで赤ちゃんが生まれることです。
令和7年度の救急振興財団の調査では、2024年の施設外分娩症例651例について、分娩時の状況も調べられました。
分娩状況が判明している547例の内訳は、救急隊の到着時点ですでに出生していたケースが419例(76%)、搬送中の救急車内で分娩に立ち会ったケースが86例(16%)、救急隊到着後に現場で分娩に立ち会ったケースが37例(7%)でした。
この数字から分かるのは、救急隊が到着する前に赤ちゃんが生まれているケースが多いということです。つまり、救急隊員は分娩そのものだけでなく、出生直後の赤ちゃんの状態を評価し、必要な救命処置を行う役割も担っています。
施設外分娩児の8%に高度な蘇生処置
同じ調査では、施設外分娩で出生した新生児651例のうち、人工呼吸などの高度な蘇生処置が行われたケースは52例、全体の8.0%でした。
内訳は、胸骨圧迫と人工呼吸の併用が3対1のケースが18例、15対2のケースが15例、人工呼吸のみが12例、胸骨圧迫のみが6例、その他が1例です。
施設外分娩では、通常の分娩室とは異なり、設備や人員に制約がある中で新生児の状態を評価しなければなりません。
新生児蘇生では、肺に空気を取り込み、子宮外での呼吸を確立させることが基本となります。日本産婦人科医会の新生児蘇生に関する解説でも、出生直後の呼吸状態や心拍数を評価し、必要に応じて人工呼吸などの対応を行うことが説明されています。
幸帽児の場合は、通常の新生児蘇生に入る前提として、顔を覆っている卵膜が呼吸を妨げていないかという確認が欠かせません。
幸帽児への対応プロトコールがある消防本部は少数
2024年の調査で明らかになったもう一つの課題は、地域ごとの対応体制の差です。
消防本部への調査では、幸帽児の処置に関するプロトコールがあると回答したのは592施設中19施設で、全体の3.2%にとどまりました。
その19施設のうち、医師やメディカルコントロールの指示で破膜可能とする施設が10施設、救急隊の判断で破膜可能とする施設が9施設でした。
産科医への調査でも、卵膜処置に関する取り決めがあると回答したのは154施設中3施設、新生児科医への調査では161施設中4施設でした。
このように、幸帽児への対応は医学的な必要性が認識されている一方で、現場で迷わず実施できる統一的な体制が十分に整っていないことが浮き彫りになりました。
研究では、施設外分娩の対応を改善するため、次の3点が重要と整理されています。
- 施設外分娩に関するプロトコールの統一。
- 医師への指示要請や相談、連絡体制の整備。
- 分娩対応や新生児蘇生を含めたシミュレーション教育の充実。
幸帽児の問題は、一つの処置を認めれば解決するものではありません。救急隊、消防本部、産科医、新生児科医が共通の基準で連携できる体制が必要です。
【プロの結論】幸帽児を理解するために押さえたい3つのポイント
1. 発生頻度の数字は分母を確認する
幸帽児に関する情報で最も誤解されやすいのが、発生確率の数字です。
自然分娩では約8万出生に1例とされる一方、2024年の施設外分娩調査では、幸帽児と判明した児の1.7%に確認されています。
この数字は一見すると大きな差がありますが、前者は自然分娩全体、後者は施設外分娩のうち状態が判明した症例が対象です。調査対象の違いを理解すれば、両者を混同せずに済みます。
2. 幸帽児と人工破膜は別の問題として理解する
卵膜を破るという行為だけに注目すると、幸帽児への破膜と通常の人工破膜は同じように見えるかもしれません。
しかし、人工破膜は出生前の分娩管理、幸帽児の破膜は出生後の呼吸確保という違いがあります。
特に救急救命士の処置範囲を考える場合、この区別は非常に重要です。出生前の分娩促進を目的とする処置を認める議論ではなく、すでに出生した赤ちゃんの生命を守るための処置を制度上明確にする議論です。
3. 医学的な必要性と法的な実施条件は分けて考える
幸帽児に対して出生後の卵膜除去が必要であることと、救急救命士が法的にその処置を実施できることは別の問題です。
2026年7月の厚生労働省検討会では、医師の包括的指示の下で処置を実施する方向性が了承されました。しかし、10月7日時点の資料では正式な通知の発出に向けた準備中とされています。
制度の変更には、教育、研修、安全管理、地域のメディカルコントロール体制などが伴わなければなりません。
幸帽児をめぐる2026年の動きは、救急救命士の処置範囲を拡大するというだけでなく、病院前救護で生まれたばかりの赤ちゃんをどう守るかという、周産期救急医療全体の課題を示しています。
幸帽児に関するよくある質問(FAQ)
Q1:幸帽児は何と読みますか?
A1:幸帽児は「こうぼうじ」と読みます。破水せず、卵膜に包まれたまま出生した赤ちゃんを指す言葉です。被膜児(ひまくじ)とも呼ばれます。
Q2:幸帽児が生まれる確率はどのくらいですか?
A2:自然分娩では約8万出生に1例とされています。ただし、2024年の施設外分娩調査では、幸帽児かどうか判明した519例中9例、約1.7%が幸帽児でした。調査対象と分母が異なるため、同じ発生率として比較することはできません。
Q3:幸帽児は出生後に必ず破膜する必要がありますか?
A3:赤ちゃんの顔が卵膜に覆われ、鼻や口から空気を取り込めない場合には、呼吸を確保するため速やかな卵膜除去が必要です。具体的な対応は赤ちゃんの状態に応じて医療従事者が判断します。
Q4:幸帽児と被膜児は違うものですか?
A4:基本的には同じ状態を指します。幸帽児は被膜児とも呼ばれ、破水せずに卵膜に包まれたまま生まれた赤ちゃんを意味します。
Q5:帝王切開でも幸帽児は生まれますか?
A5:はい。卵膜を温存したまま娩出する幸帽児帝王切開法があります。特に超早産児などへの負担を抑える目的で検討・実施される方法です。
Q6:2026年から救急救命士は幸帽児の破膜ができるようになりましたか?
A6:2026年7月9日の厚生労働省検討会では、医師の包括的指示の下で実施する方向性が了承されました。ただし、同年10月7日の厚生労働省資料では通知発出に向けた準備中とされています。検討会の了承だけで全国一律に実施可能になったわけではありません。
Q7:幸帽児は赤ちゃんにとって危険な状態ですか?
A7:幸帽児という出生形態そのものが病気を意味するわけではありません。ただし、出生後も顔が卵膜で覆われている場合、肺呼吸が妨げられて低酸素状態になる危険があります。出生直後の適切な評価と対応が重要です。
まとめ:幸帽児は珍しい出産現象であり、出生直後の救命対応が重要
幸帽児とは、破水せずに卵膜に包まれたまま生まれてくる赤ちゃんのことです。読み方は「こうぼうじ」で、被膜児とも呼ばれます。
自然分娩での発生頻度は約8万出生に1例とされますが、2024年の施設外分娩調査では9例が確認され、周産期母子医療センターの医師からの報告も含めると、国内で少なくとも14例が発生したと研究で推定されました。
幸帽児にとって最も重要なのは、出生後の呼吸確保です。顔が卵膜で覆われた状態では肺呼吸が妨げられるため、速やかな卵膜除去が必要になります。
2026年7月9日には厚生労働省の検討会で、救急救命士が医師の包括的指示の下で破膜できるようにする方向性が了承されました。同年10月7日時点では通知発出に向けた準備が進められており、正式な制度整備が今後の焦点です。
幸帽児を正しく理解するためには、珍しい出産現象という側面だけでなく、出生直後の呼吸管理、施設外分娩の実態、救急救命士の教育と法制度を一体的に捉える必要があります。赤ちゃんの命を守るための周産期救急体制が、今後どのように整備されるか引き続き注目されます。
主な根拠資料
- 厚生労働省「第2回救急救命処置の在り方に関する検討会」(2026年7月9日)。
- 厚生労働省「第3回救急救命処置の在り方に関する検討会」関連資料(2026年10月7日)。
- 一般財団法人救急振興財団「病院前周産期救護の現状と教育のあり方に関する検討」(2026年3月)。
- 日本産婦人科医会「超早産児の帝王切開における注意点」。
- 日本産婦人科医会「新生児蘇生において重要な要素」。
- 日本救急医学会関東地方会雑誌「幸帽児分娩に対して救急救命士が救急現場で破膜処置をした1例」(2020年)。