【順位戦A級の仕組み】名人挑戦権を懸けた10人の総当たり戦
順位戦A級は、日本将棋連盟が定める順位戦の最上位クラスです。名人戦の挑戦者を決めるリーグ戦であり、A級に所属すること自体がトップ棋士としての実力を示す大きな実績になっています。
順位戦は、A級、B級1組、B級2組、C級1組、C級2組の5クラスで構成されています。さらに、順位戦に参加しないフリークラスという制度もあります。
A級は10人で9局を戦う

A級の基本的な仕組みは次のとおりです。
- 参加棋士は原則10人。
- 全員がほかの9人と1局ずつ対戦する。
- 1人あたり年間9局を戦う。
- 持ち時間は双方とも各6時間。
- リーグ最高成績者1人が名人挑戦権を獲得する。
- 原則として成績下位2人がB級1組に降級する。
つまり、A級は10人による総当たり戦で、年間合計45局が行われます。
一般的なトーナメントと異なり、1局負けても即座に敗退することはありません。年間を通じて安定した成績を残せるかどうかが問われます。
日本将棋連盟の公式ルールでも、A級は10人による総当たりを原則とし、各6時間の持ち時間が設定されています。
A級と名人の違い
初心者が間違えやすいのが、A級棋士と名人の違いです。
A級棋士は、名人への挑戦権を争っている棋士です。名人のタイトルを保持しているわけではありません。
A級リーグで最高成績を収めた棋士が、現名人との七番勝負に進出します。
七番勝負は先に4勝した棋士が勝者となり、名人のタイトルを獲得します。
したがって、A級優勝と名人獲得は別の段階です。A級を勝ち抜いても、名人戦七番勝負で敗れれば名人にはなれません。
【第85期A級順位表】2026年最新の全10棋士と成績一覧
2026年度の第85期名人戦・順位戦A級には、10人の棋士が参加しています。
ここで確認したいのは、順位表に記載された順位と、現在の勝敗による成績順は必ずしも一致しないという点です。
以下は、2026年10月31日時点の成績を反映した一覧です。
第85期・4回戦終了時点。順位は期首のリーグ順位。
注目の10人、それぞれの立ち位置
永瀬拓矢九段
第85期の挑戦権争いをリードする存在です。4連勝で、豊島九段と並んで首位を走っています。前期の第84期でも7勝2敗を記録し、プレーオフに進出した実績があります。
豊島将之九段
永瀬九段と同じく4勝0敗。過去にも名人戦の挑戦者を経験しており、第82期ではA級を7勝2敗で制して挑戦権を獲得しました。今期も安定した戦いが目立ちます。
増田康宏八段
3勝1敗で2人を追う立場です。序盤から3連勝を記録しましたが、4回戦で豊島九段に敗れました。首位との差を縮めるためには、今後の直接対決が重要になります。
佐々木勇気八段
2勝2敗。永瀬九段と豊島九段には敗れたものの、近藤誠也八段との対局では勝利しています。上位争いに再び加わるためには、5回戦以降の連勝が欲しいところです。
佐藤天彦九段
第85期では2勝2敗。第84期は3勝6敗で苦戦しましたが、今期は4回戦で伊藤匠叡王を破り、成績を五分に戻しました。
広瀬章人九段
2勝2敗で中位につけています。永瀬九段には敗れましたが、豊島九段との対局など、これからの上位陣との戦いが重要です。
近藤誠也八段
2勝2敗。永瀬九段には敗れたものの、糸谷九段と伊藤匠叡王から勝利を挙げています。今後の対局次第で上位にも降級争いにも関わる位置です。
糸谷哲郎九段
1勝3敗。第84期はA級を7勝2敗で終え、永瀬九段とのプレーオフを制して名人挑戦者になりました。今期は開幕から苦戦しているだけに、残り5局での巻き返しが求められます。
千田翔太八段
開幕4連敗で、現在は厳しい状況です。残り5局で白星を積み重ね、残留争いから抜け出せるかが焦点になります。
伊藤匠叡王
第85期がA級初参戦。タイトル獲得経験を持つ若手実力者ですが、今期は開幕4連敗となっています。初めてのA級という舞台で、どこまで対応できるかが注目されています。
【永瀬拓矢・豊島将之が4連勝】第85期の挑戦権争いを分析
第85期A級順位戦で最も大きな注目を集めているのが、永瀬拓矢九段と豊島将之九段の無敗対決です。
永瀬拓矢は開幕から安定した4連勝
永瀬九段は、次の4人を破っています。
- 1回戦:近藤誠也八段
- 2回戦:伊藤匠叡王
- 3回戦:佐々木勇気八段
- 4回戦:広瀬章人九段
いずれもA級に所属する実力者です。特定の相手にだけ強いというより、異なる棋風の相手に勝ち続けている点が目を引きます。
特に、4回戦で広瀬九段を破ったことで、開幕4連勝を達成しました。
永瀬九段は第83期の名人戦でも藤井聡太名人に挑戦した経験があり、名人戦の大舞台を知る棋士です。再び挑戦権を獲得できるかに関心が集まっています。
豊島将之も負けなしで追走
豊島九段も開幕4連勝です。
対戦相手は次のとおりです。
- 1回戦:佐藤天彦九段
- 2回戦:佐々木勇気八段
- 3回戦:糸谷哲郎九段
- 4回戦:増田康宏八段
特に注目されるのは、4回戦で増田八段との対局を制したことです。
増田八段は当時3連勝と好調でしたが、豊島九段が直接対決を制して無敗を守りました。
これにより、永瀬九段と豊島九段が4勝0敗で並び、増田八段が3勝1敗で追う構図になっています。
増田康宏の3勝1敗も見逃せない
増田八段は、序盤の3連勝で挑戦権争いに名乗りを上げました。
しかし、4回戦で豊島九段に敗れたため、現在は3勝1敗です。
A級では、上位棋士との直接対決が大きな意味を持ちます。単に勝ち星を重ねるだけではなく、挑戦権を争うライバルから白星を挙げられるかが重要です。
伊藤匠A級初参戦の試練
今期のもう一つの注目点は、伊藤匠叡王のA級初参戦です。
伊藤叡王は第84期のB級1組で10勝2敗を挙げ、A級への昇級を決めました。若くしてタイトルを獲得した実力者が、初めてA級のリーグ戦に挑んでいます。
しかし、2026年10月30日の4回戦では佐藤天彦九段に敗れ、開幕4連敗となりました。
この対局は東京・将棋会館で行われ、佐藤九段が99手で勝利。佐藤九段は2勝2敗と星を五分に戻しています。
ABEMAの解説では、序盤の角換わりから伊藤叡王が右玉に構え、佐藤九段が穴熊を志向するなど、細かな駆け引きが続いた一局として紹介されました。
4連敗は厳しい結果ですが、A級初参戦の1年目からすぐに降級が決まるわけではありません。残り5局で勝ち星を積み上げられるかが焦点です。
【名人挑戦権とプレーオフの条件】同率首位ならどうなる?
A級の最大の目的は、名人への挑戦権を獲得することです。
では、9局を戦い終えたとき、どのような条件で挑戦者が決まるのでしょうか。
名人挑戦者は最高成績者1人
基本的な決定方法はシンプルです。
9局終了時点で最も勝ち星が多い棋士が、名人戦七番勝負への挑戦権を獲得します。
例えば、次のような結果になった場合を考えてみましょう。
- A棋士:8勝1敗
- B棋士:7勝2敗
- C棋士:6勝3敗
この場合、8勝1敗のA棋士が単独で挑戦権を獲得します。
重要なのは、A級の順位が1位だからといって自動的に挑戦できるわけではない点です。リーグ戦の最終成績が優先されます。
同率首位の場合はプレーオフ
複数の棋士が最高成績で並んだ場合は、プレーオフが行われます。
日本将棋連盟の公式ルールでは、同率首位となった棋士全員がプレーオフに参加します。
例えば、2人がともに7勝2敗で並べば、その2人による挑戦者決定戦です。
3人が同率首位なら、その3人全員がプレーオフの対象となります。
ここで注意したいのは、プレーオフが必要なのは最高成績で並んだ場合だということです。
3位や4位で同じ勝敗の棋士が複数いても、名人挑戦権を決めるプレーオフは行われません。
2026年度は永瀬・豊島の直接対決にも注目
第85期の対戦日程では、永瀬九段と豊島九段の直接対決が最終9回戦に予定されています。
対局予定日は2027年3月3日です。
両者がこのまま好成績を維持すれば、挑戦権を左右する大一番になる可能性があります。
ただし、そこに至るまでにはほかの棋士との対局も残っています。増田八段を含めた上位争いの展開によって、最終戦の意味合いも変わってきます。
【A級降級条件と降級争い】下位2人はB級1組へ
名人挑戦権と同じくらい厳しいのが、A級残留を懸けた戦いです。
A級は原則として、リーグ成績の下位2人がB級1組に降級します。
4連敗でも即降級ではない
2026年10月31日時点で、千田翔太八段と伊藤匠叡王はともに0勝4敗です。
この2人は現時点で降級争いの厳しい位置にいます。
しかし、A級は全9局制です。まだ5局が残っているため、4連敗だけで降級が決定するわけではありません。
残り5局に全勝すれば、最終成績を5勝4敗にできます。
ほかの棋士の勝敗によっては、残留の可能性も残されています。
同じ勝敗なら期首順位が影響する
A級の順位戦で特に知っておきたいのが、同じ成績になった場合の扱いです。
日本将棋連盟の規定では、同じ勝敗の棋士が並んだ場合、前期の順位によって順位が決まります。
降級についても同じ考え方が適用され、残留決定戦は行われません。
つまり、今期の勝敗だけでなく、シーズン開始時点の順位も重要な意味を持っています。
例えば、同じ成績で降級枠に並んだ場合、期首順位が下だった棋士が不利になります。
指し分け以上でも降級する可能性がある
もう一つの誤解が、5勝4敗なら必ず残留できるという考え方です。
A級には、勝ち越しや指し分けを達成すれば自動的に残留できるという規定はありません。
あくまでリーグ全体の順位で下位2人が決まります。
したがって、理論上は5勝4敗でも降級枠に入る可能性があります。
この仕組みが、最後まで気の抜けないA級の厳しさにつながっています。
【順位戦A級の歴代名人挑戦者】近年の結果から見る名人戦への道
A級の歴史を振り返ると、現在の上位棋士たちが名人挑戦権を争ってきた経緯も見えてきます。
特に第81期から第84期までの挑戦者を見ると、藤井聡太、豊島将之、永瀬拓矢、糸谷哲郎といった実力者が名を連ねています。
近年の名人戦挑戦者
- 第84期(2025~2026年):糸谷哲郎
- A級で7勝2敗。
- 永瀬拓矢と同率となり、プレーオフを制して挑戦権を獲得。
- 名人戦七番勝負では藤井聡太に0勝4敗で敗退。
- 第83期(2024~2025年):永瀬拓矢
- A級で6勝3敗。
- 名人戦七番勝負で藤井聡太と対戦し、1勝4敗。
- 第82期(2023~2024年):豊島将之
- A級で7勝2敗。
- 名人戦七番勝負で藤井聡太に挑戦し、1勝4敗。
- 第81期(2022~2023年):藤井聡太
- A級で7勝2敗。
- 名人戦七番勝負で渡辺明名人に勝利し、名人位を獲得。
これらの記録は、日本将棋連盟の各期公式対戦表と名人戦の結果で確認できます。
第84期のプレーオフはA級の厳しさを象徴
特に興味深いのが、第84期です。
永瀬九段と糸谷九段がともに7勝2敗で並び、通常のリーグ成績だけでは挑戦者が決まりませんでした。
そこでプレーオフが実施され、糸谷九段が勝利。藤井聡太名人への挑戦権を手にしました。
この結果からも、A級では最後まで勝ち星を積み上げるだけでなく、同率首位になった際の決定戦まで勝ち抜く必要があることが分かります。
第85期でも永瀬九段と豊島九段が4連勝しているだけに、プレーオフを含めた挑戦者争いは見逃せません。
【第85期A級の今後の見どころ】11月の5回戦と注目カード
2026年10月31日時点で、A級は4回戦まで終了しています。
次の5回戦は、2026年11月16日から20日にかけて予定されています。
注目カードは次の5局です。
- 11月16日:永瀬拓矢-糸谷哲郎
- 11月17日:佐々木勇気-千田翔太
- 11月18日:豊島将之-広瀬章人
- 11月19日:増田康宏-伊藤匠
- 11月20日:近藤誠也-佐藤天彦
永瀬対糸谷は連勝継続か、反撃か
4連勝中の永瀬九段に対して、糸谷九段は1勝3敗です。
永瀬九段が勝てば5連勝となり、挑戦権争いでさらに優位に立つ可能性があります。
一方、糸谷九段にとっては上位進出を目指すうえで重要な一局です。
豊島対広瀬も上位争いのポイント
豊島九段は無敗を維持していますが、5回戦では2勝2敗の広瀬九段と対戦します。
豊島九段が勝てば5連勝となり、永瀬九段との首位争いを継続できます。
広瀬九段にとっても、上位に追いつくために重要な対局です。
増田対伊藤は両者にとって重要
3勝1敗の増田八段と0勝4敗の伊藤叡王の対局も見逃せません。
増田八段は上位を追うために勝ち星を増やしたいところです。
伊藤叡王は初勝利を目指す立場であり、ここで白星を挙げられるかが残留争いにも影響します。
【順位戦A級に関するよくある質問(FAQ)】
Q1:順位戦A級は何人で戦うのですか?
A1:原則として10人です。全員がほかの9人と1局ずつ対戦する総当たり戦で、年間9局を戦います。
Q2:A級で優勝すると、そのまま名人になれるのですか?
A2:いいえ。A級の最高成績者は名人への挑戦権を獲得します。その後、現名人との七番勝負を行い、先に4勝した棋士が名人になります。
Q3:順位戦A級で4連敗すると降級が決まりますか?
A3:いいえ。4連敗しても残りの対局があります。最終的に下位2人に入ると降級する仕組みなので、残りの勝敗によっては残留の可能性があります。
まとめ:2026年の順位戦A級は永瀬・豊島の首位争いが焦点
2026年度の第85期名人戦・順位戦A級は、永瀬拓矢九段と豊島将之九段が4勝0敗で並び、増田康宏八段が3勝1敗で追う展開となっています。
一方、千田翔太八段と伊藤匠叡王は開幕4連敗。糸谷哲郎九段も1勝3敗と、今後の巻き返しが必要な状況です。
【プロの結論】 第85期A級を楽しむうえで押さえておきたいのは、次の3つです。
1. 名人挑戦争い: 永瀬・豊島の連勝がどこまで続くか。最終戦の直接対決も重要。
2. 順位の仕組み: 同率首位ならプレーオフ、下位の同星は期首順位によって決定。
3. 残留争い: 4連敗でも降級は確定しない。残り5局の結果が大きく影響する。
順位表を見る際には、現在の勝敗だけでなく、期首順位や今後の対戦相手も確認することが大切です。
次の5回戦は11月16日から20日。永瀬九段と豊島九段が無敗を守るのか、増田八段が追いつくのか。そして、苦しい状況にある棋士たちがどのような反撃を見せるのか。第85期A級は、名人挑戦権と残留をめぐる両方の戦いから目が離せません。