【実在した?】きりのモデルは高梨内記の娘だった

目次

きりの実在性を考えるうえで重要なのが、真田信繁の家臣だった高梨内記(たかなしないき)の存在です。

高梨内記は実在した人物で、その娘も歴史上の人物として記録されています。NHK大河ドラマの時代考証を担当した歴史研究者・黒田基樹氏は、2018年に福井県文書館の講演録で、きりのモデルとなった女性について解説しています。

黒田氏によれば、歴史資料から確認できるのは、高梨内記の娘であること、そして信繁の三女と四女を産んだことです。一方、女性本人の実名や生没年、詳しい生涯は明らかになっていません。

つまり、きりは完全な架空人物ではなく、実在した女性をモデルに創作されたドラマのキャラクターという位置づけです。

「きり」という名前は実名ではない

真田丸きり

意外に知られていないのが、「きり」という名前そのものです。

史料に残るのは「高梨内記の娘」という呼び方であり、きりという名前は『真田丸』の役名です。戦国時代の女性は、武将の妻や娘として記録されても、個人名が残らないことが珍しくありませんでした。

そのため、実在した女性の名前が「きり」だったと断定することはできません。

高梨内記は信繁にとってどんな人物だった?

真田丸きり

高梨内記と信繁の関係にも興味深い背景があります。

黒田基樹氏は、真田家臣に伝わる複数の伝承から、高梨内記が信繁の乳母夫、つまり乳母の夫であり、幼少期の守り役だった可能性を指摘しています。

この見方が正しければ、高梨内記の娘と信繁が幼いころから近しい関係にあったとしても不自然ではありません。ただし、二人が幼なじみとして過ごしたという具体的な記録が残っているわけではありません。

【長澤まさみのきり役】三谷幸喜が設定した「戦国のヤンキー」とは

真田丸きり

きりを演じたのは、俳優の長澤まさみです。

脚本を担当した三谷幸喜は、きりに独特の人物像を与えました。戦国時代の女性でありながら、現代人のような話し方をし、身分の高い人物にも遠慮なく意見を言う。従来の大河ドラマのヒロインとは一線を画す存在でした。

長澤まさみは2016年12月のNHKのトーク番組出演時、三谷から渡された役作りのキーワードが「戦国のヤンキー」だったと明かしています。

なぜ現代語で話すキャラクターになったのか

きりの話し方は、放送当初から大きな話題になりました。

周囲の人物が時代劇らしい言葉遣いをするなか、きりだけが現代的な口調で信繁に話しかけます。目上の人物にも遠慮せず、恋愛感情も隠さず、思ったことをそのまま口にする。このギャップが作品の特徴になっていました。

長澤はインタビューで、きりの現代語風の台詞について、視聴者が信繁の物語を理解するための目線になる役割もあるのではないかと語っています。

「きりは視聴者の方の目線になることが役割なのかもしれませんね」

【検証資料 1】真田丸きりの当時の様子・関連報道写真(出典:Yahoo!ニュース)

これは単なるコミカルな演出ではありません。難しい歴史用語や武家社会の人間関係を、視聴者と同じ感覚で受け止める人物を配置することで、物語への入り口を作っていたのです。

長澤まさみ自身が作り上げたキャラクター

興味深いのは、きりの人物像が脚本家だけで完成したわけではないことです。

2016年12月16日の報道によれば、堺雅人は長澤について、きりという人物をゼロから作り上げたと評価しました。

「きりは長澤さんがゼロから作ったキャラ」

堺はさらに、きりを『真田丸』の母のような存在と表現しています。主人公の信繁が戦乱の中で人生を変えていく一方、きりはその変化を見届け、時には叱り、時には支える役割を担っていました。

【きりと真田信繁の関係】幼なじみから生涯のパートナーへ

きりと真田信繁の関係は、『真田丸』を通して描かれる大きな見どころの一つです。

ドラマでは、二人は幼いころからの知り合い。きりは早くから信繁に恋心を抱いていますが、信繁は梅や春など、ほかの女性との関係を深めていきます。

それでも、きりは信繁から離れません。真田家の状況が変わっても、信繁が大坂へ向かっても、九度山で蟄居生活を送ることになっても、彼のそばに居続けます。

きりが信繁の大坂城入りを後押しした理由

物語の終盤で特に重要なのが、信繁が大坂城に入る決断をする場面です。

関ヶ原の戦いに敗れた信繁は、父・昌幸とともに九度山で生活していました。かつての武将としての立場を失い、厳しい生活を送るなか、豊臣方から参陣を求められます。

当初、信繁は迷いを見せます。しかし、豊臣秀頼や茶々の苦境を知り、きりからも強く背中を押されます。

ここでのきりは、単に恋する女性ではありません。信繁が自分の人生をどう生きるのかを考える際、正面から意見をぶつけられる人物です。

史実では信繁の側室だったのか

ドラマでは幼なじみとして描かれる二人ですが、史実上の関係は異なります。

高梨内記の娘は、真田信繁の側室の一人だったと考えられています。黒田基樹氏の講演録では、信繁の三女と四女を産んだ女性として紹介されています。

つまり、史実上は単なる幼なじみではなく、信繁の家族を構成する女性の一人だったわけです。

一方、ドラマのように幼いころから恋心を抱き続け、長い年月を経て結ばれるという恋愛の過程は、史実で確認できる出来事ではありません。

【史実とドラマの違い】きり・高梨内記・信繁の関係を比較

ここで、歴史上の高梨内記の娘と、長澤まさみが演じたきりの違いを整理します。

比較項目 史実上の情報 『真田丸』の設定 人物名 高梨内記の娘。実名不詳 きり 父親 真田家臣・高梨内記 高梨内記(中原丈雄) 信繁との関係 側室の一人と考えられる 幼なじみで生涯のパートナー 恋愛関係 恋愛の具体的な経緯は不明 長年の片思いが終盤で実る 子ども 信繁の三女・四女の母とされる 史実とは異なる家族関係・人物配置 大坂の陣 本人の具体的な行動や最期は不明 信繁を支え、千姫の護送を託される 生没年 詳しい記録は不明 ドラマ上の生涯として描写 人物像 性格や日常生活の詳細は不明 率直で行動的な「戦国のヤンキー」

この比較で重要なのは、ドラマの設定を史実上の出来事と混同しないことです。

特に、きりのモデルとなった女性の子どもについては、歴史資料の解釈にも注意が必要です。黒田氏は三女と四女の母と説明していますが、三女の阿梅(おうめ)については、竹林院との母子関係を含め、異なる説も紹介されています。

歴史上の女性の記録が少ないからこそ、ドラマでは人物像や人間関係を大きく膨らませる余地がありました。

ドラマの梅と史実の阿梅は混同しない

もう一つ注意したいのが、「梅」という名前です。

『真田丸』で黒木華が演じた梅は、信繁の初期の恋愛相手となる女性です。一方、史実の阿梅は信繁の娘で、後に伊達政宗の重臣・片倉重長の後妻となった人物です。

名前が似ているため混乱しやすいのですが、ドラマの梅と史実の阿梅は同一人物として扱うべきではありません。黒田氏の研究では、阿梅は高梨内記の娘の子とされていますが、母親については異説も存在します。

【きりの最後・最終回の結末】千姫の護送と信繁とのキスシーン

きりの結末を語るうえで欠かせないのが、大坂夏の陣を前にした信繁との別れの場面です。

ただし、放送回については正確に整理しておく必要があります。話題になったキスシーンは、最終回の第50回ではなく、2016年12月11日放送の第49回「前夜」のラストで描かれました。

千姫を救う最後の使命

大坂城が追い詰められるなか、信繁は家族を逃がす手配を進めます。そして、きりには豊臣秀頼の正室である千姫を、徳川秀忠の陣まで送り届ける役目を託します。

信繁は、任務を終えたら沼田へ帰るように告げます。しかし、きりは信繁のもとへ戻ってくると答えます。

彼女にとって、信繁のいない世界に戻ることには意味がありませんでした。長年、言葉にしてきた恋心が、この瞬間に初めて信繁へ届きます。

キスシーンは台本になかった?長澤まさみが明かした裏話

この場面は、放送当時、大きな反響を呼びました。

信繁に抱きしめられたきりが、ようやく思いを通じ合わせる場面。そこで交わされたキスは、実は当初の台本にはありませんでした。

2016年12月16日、長澤まさみがNHKの番組で明かしたところによると、キス自体は堺雅人からの提案でした。さらに長澤は、キスをしながら台詞を話す演技を自ら提案し、実際のシーンに取り入れられました。

長澤は、きりが何かをしながら別のことをする人物であることから、この演技を以前からやってみたかったと振り返っています。

脚本家の三谷幸喜も、この演技を高く評価しました。キスをしながらも台詞の意味が伝わるという難しい芝居を、長澤らしい演技で成立させたという趣旨のコメントをしています。

きりは最終回でどうなった?

2016年12月18日放送の第50回が『真田丸』の最終回です。

NHKオンデマンドの公式番組情報では、最終回は豊臣方と徳川方の最後の決戦を描く内容となっています。信繁は家康の本陣へ向かい、戦国武将として最後の戦いに挑みます。

きりについては、前話で千姫を送り届ける使命を託され、信繁のもとに戻る意思を示しています。しかし、最終回で彼女が戦後どのような人生を送ったのか、その後の具体的な生活や最期まで描かれているわけではありません。

したがって、ドラマのきりは信繁との別れを前に思いを通わせるところまで描かれ、その後の人生は明確に描写されていないというのが正確な整理です。

一方、史実上の高梨内記の娘についても、黒田基樹氏は亡くなった時期が分からないと説明しています。ドラマの結末と歴史上の女性の最期を同一視することはできません。

【きりはうざい?】視聴者の評判が変わった理由

『真田丸』のきりは、放送序盤から視聴者の評価が分かれたキャラクターでした。

その理由は、従来の大河ドラマの女性像とは異なる言動にあります。

序盤に「うざい」と言われた3つの理由

主な理由は次のとおりです。

1.信繁への遠慮のない態度

きりは信繁に対して、恋心を隠さず、時には嫉妬や不満をそのままぶつけます。相手の立場や状況を考えずに話すこともあり、視聴者によっては自己中心的に映りました。

2.現代的な言葉遣い

ほかの登場人物と比べて、きりの台詞は非常に現代的です。歴史ドラマらしい雰囲気を期待していた視聴者には、違和感を覚える要因になりました。

3.物語を引っかき回す存在

信繁が慎重に行動しようとする場面でも、きりは自分の考えを押し通します。物語のテンポを変える存在であり、時には周囲を困らせることもありました。

2016年のMANTANWEBや週刊女性PRIMEのインタビューでも、放送初期に「うざい」という反応があったことが紹介されています。

なぜ「うざい」から「かわいい」に変わったのか

物語が進むにつれて、きりの言動は別の意味を持つようになります。

信繁が大坂へ向かう際には背中を押し、九度山で苦しい生活を送るときもそばに居続ける。大坂の陣を前にしても、自分の安全より信繁との時間を選ぼうとします。

序盤では単なるおせっかいに見えた言葉が、終盤では信繁を本気で心配するからこその言葉として伝わってくるのです。

長澤まさみ自身も、きりの性格が根本的に変化したわけではないと語っています。変わったのは、視聴者が彼女の言動を受け止める見方だったという解釈です。

きりの人物像を理解するための判断基準

きりを評価するときは、一般的な時代劇のヒロイン像だけで判断しないことがポイントです。

歴史考証を担当した黒田基樹氏も、きりの言葉遣いについて、昔の時代劇で定着した「時代劇らしい話し方」と実際の言葉の感覚は必ずしも同じではないと解説しています。

また、きりのような現代的な言葉遣いを通じて、若い視聴者が時代劇に入りやすくなるという効果も指摘しています。

そのため、きりのキャラクターは次のような視点で見ると理解しやすくなります。

- 戦国時代の女性の生き方を忠実に再現した人物というより、視聴者の感情を代弁するドラマ上の存在。
- 恋愛だけでなく、信繁の人生に意見をぶつける対等なパートナー。
- 時代劇に慣れていない人でも物語に入り込めるように設計されたキャラクター。

【よくある質問】真田丸のきりに関するFAQ

Q1:真田丸のきりは実在した人物ですか?

A1:モデルとなった女性は実在しました。真田信繁の家臣・高梨内記の娘です。ただし、きりという名前はドラマ上の設定で、実名や詳しい生涯は分かっていません。

Q2:きりを演じた女優は誰ですか?

A2:長澤まさみです。三谷幸喜が設定した「戦国のヤンキー」という個性的な人物像を演じました。

Q3:きりと真田信繁は本当に幼なじみだったのですか?

A3:幼なじみという関係はドラマの設定です。史実では高梨内記の娘は信繁の側室だったと考えられていますが、幼少期の二人の交流を具体的に示す記録はありません。

Q4:きりと信繁のキスシーンは何話ですか?

A4:第49回「前夜」です。2016年12月11日に放送されました。堺雅人の提案と長澤まさみの演技上のアイデアによって実現した、台本にはなかったシーンです。

Q5:きりは大坂の陣で亡くなったのですか?

A5:ドラマでは、千姫を送り届ける役目を託され、信繁のもとへ戻る意思を示しています。その後の人生や最期は明確に描かれていません。史実上のモデルとなった女性についても、没年は不明です。

Q6:きりは信繁との間に子どもを産んだのですか?

A6:史実上の高梨内記の娘は、信繁の三女と四女の母とする説があります。ただし、子どもの母親については史料の解釈に違いもあります。ドラマのきりの物語と史実上の家族関係は区別が必要です。

Q7:きりが「戦国のヤンキー」と呼ばれたのはなぜですか?

A7:三谷幸喜側から長澤まさみに伝えられた役作りのキーワードです。身分や周囲の空気にとらわれず、自分の意見をはっきり伝える性格を表しています。

まとめ:真田丸のきりは史実の女性をモデルにした三谷幸喜の創作ヒロイン

『真田丸』のきりは、実在した高梨内記の娘をモデルにしながら、三谷幸喜と長澤まさみが独自の人物像を作り上げたキャラクターです。

史実上の女性は真田信繁の側室の一人と考えられていますが、名前や詳しい生涯は分かっていません。幼なじみとしての関係や長年の恋愛、キスシーンなどはドラマ独自の物語です。

放送当初は現代的な言葉遣いや遠慮のない性格から賛否が分かれました。しかし、信繁の人生に寄り添い、大坂城入りを後押しし、最後まで思いを伝え続ける姿によって、きりは作品を代表する人物の一人になりました。

特に注目したいのは、2016年12月11日放送の第49回「前夜」で描かれた信繁とのキスシーンです。台本になかった演技上の提案が、長年の二人の関係を象徴する名場面になりました。

【プロの結論】 きりの魅力は、史実に忠実な人物再現ではなく、記録に残りにくかった戦国時代の女性を、物語の中心で生きる一人の人間として描いたことにあります。歴史上の高梨内記の娘と、長澤まさみが演じたきり。この二つを区別して見ることで、『真田丸』が描こうとした信繁の人生と、きりという女性の存在感をより深く理解できます。

主な参考資料:NHKオンデマンド『真田丸』第50回番組情報、福井県文書館研究紀要15号・黒田基樹「真田信繁と大谷吉継、そして越前松平家」、MANTANWEBの長澤まさみインタビュー、クランクイン!の出演者発言報道、週刊女性PRIMEの長澤まさみインタビュー。