【5】ノストラダムスの予言は外れた?的中例と1999年人類滅亡説の真相
1999年7月に人類が滅亡するという解釈は、結果的に現実になりませんでした。
しかし、ノストラダムスの予言を信じる人々の間では、ほかにも「歴史上の大事件を言い当てていた」という主張が存在します。
代表的な事例を検証すると、的中したとされる理由と、実際の史料との食い違いが見えてきます。
的中例① アンリ2世の事故死

フランス国王アンリ2世は、1559年の馬上槍試合で負傷し、その後亡くなりました。
この事件と結び付けられているのが、第1巻35番です。
この詩には、若いライオンと年老いたライオンが戦い、金色の檻を通して目を傷つけ、苦しい死を迎えるという趣旨の表現があります。
後世の解釈者は、若いライオンを対戦相手のモンゴムリ伯、年老いたライオンをアンリ2世に当てはめました。
目の負傷と死という共通点から、予言が的中したと評価されたのです。
ただし、問題は詩の中にアンリ2世の名前も、馬上槍試合の開催年も記されていないことです。
歴史研究では、この詩をアンリ2世の事故死と結び付ける解釈が、事件後に広まった経緯も検討されています。
したがって、事前に特定の事故を予告していたと証明されたわけではありません。
的中例② ヒトラーの出現を予言したという説
第2巻24番には「Hister」という言葉が登場します。
この単語がAdolf Hitlerの名前に似ていることから、ヒトラーの台頭と第二次世界大戦を予言したという説が広まりました。
しかし、Histerはヒトラーを意味する固有名詞ではありません。
歴史的・地理的な用法では、ドナウ川下流域を指す名称として説明されます。
つまり、現代の読者が音の類似性からヒトラーを連想したとしても、それだけでは予言の的中を裏付ける根拠にはなりません。
的中例③ アメリカ同時多発テロ事件
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件でも、ノストラダムスが事件を予言していたという情報がインターネット上に広まりました。
その際に引用されたのが、「鋼鉄の鳥が大都市に落ちる」という趣旨の文章です。
ところが、この文章はノストラダムスの真正な四行詩ではありません。
実際の詩の断片と創作された文章を組み合わせたものと確認されています。
ノストラダムスが1566年に亡くなっていることを考えると、後世に作られた文章を本人の予言として扱うことはできません。
なぜノストラダムスの予言は的中したように見えるのか
ここには、予言を読み解く際の心理的・構造的な問題があります。
1. 表現が抽象的である
「大きな王」「火」「戦争」「天から来るもの」といった言葉は、さまざまな事件に当てはめられます。
特定の人物や場所、日時が示されていなければ、後世の出来事に結び付ける余地が広がります。
2. 出来事が起きた後に解釈される
事件が発生した後で詩を読み返すと、似ている言葉が見つかることがあります。
しかし、事件が起きる前に同じ解釈が成立していたかどうかは、別に検証しなければなりません。
3. 都合のよい予言だけが注目される
多くの詩篇の中から、現実の出来事と似ている部分だけを取り上げれば、的中率が高いように見えてしまいます。
反対に、該当する出来事が見つからない詩篇や、解釈と一致しない出来事は注目されにくくなります。
4. 翻訳によって意味が変わる
ノストラダムスは16世紀のフランス語を用い、ラテン語などの要素も交えて詩を書きました。
古語、地名、比喩、異綴りが含まれるため、翻訳者によって解釈が変わることがあります。
こうした問題は、現代のノストラダムス研究でも重要な論点です。
1999年人類滅亡説が外れた最大の理由
第10巻72番には、そもそも「人類が滅亡する」という直接的な文章がありません。
詩に登場するのは、1999年、7の月、空から来る大王、アンゴルモアの大王、マルスです。
そこから世界の終末という意味を導くには、複数の解釈を積み重ねる必要があります。
つまり、五島勉の著書で広く知られるようになった人類滅亡説は、原文をそのまま日本語にしたものではなく、原文に対する一つの終末論的解釈だったのです。
1999年7月に人類が滅亡しなかったという事実は、少なくともこの解釈が現実の予測として成立しなかったことを示しています。
【6】ノストラダムスの現在の学術的評価と2026年最新解釈
2026年現在、ノストラダムスは単純に「未来を見通した予言者」として研究されているわけではありません。
研究対象となっているのは、16世紀フランスの思想、占星術、歴史観、文学表現、書物の出版事情、そして後世の予言解釈の変遷です。
特に第10巻72番は、原文の異同や年代の問題があるため、文献学的にも興味深い研究対象になっています。
2025年に発表された第10巻72番の新しい研究
2025年2月6日、日本フランス語フランス文学会関東支部論集で、鈴木大輔による研究論文が公開されました。
題名は「『恐怖の大王』か、『世話役たる大王』か―ノストラダムス『予言集』第10巻72番について―」です。
この研究で重要なのは、従来の解釈を単純に否定するのではなく、複数の可能性を原文と歴史的背景から比較している点です。
主な論点は次の3つです。
第一に、フランソワ1世とカール5世をめぐる歴史的解釈。
1525年のパヴィアの戦い、捕虜となったフランソワ1世の回復、1526年3月の釈放という史実を詩に対応させています。
この場合、恐怖の大王は「世話役たる大王」と読まれ、カール5世に対応する可能性があります。
第二に、ノストラダムスの終末思想との関係。
論文は、ノストラダムスの第二序文に登場する第7千年紀や千年王国の考え方にも注目しています。
この観点からは、第10巻72番が単なるフランス王の復帰ではなく、終末に現れる世界最終皇帝や天使教皇といった宗教的モチーフを反映した詩である可能性も検討されています。
第三に、1999年という年代の意味。
1999年がなぜ選ばれたのかについても、ノストラダムスの年代観や天文学的な背景との関係が議論されています。
研究者は、フランソワ1世説にも説明上の問題が残ることを指摘し、さらなる検討が必要だとしています。
この論文は、1999年人類滅亡説を裏付ける研究ではありません。むしろ、原文の読み方や作品の成立過程を再検討する研究です。
『予言集』そのものにも残る文献学的な問題
もう一つ見逃せないのが、原典の成立過程です。
放送大学の鈴木大輔による研究「ノストラダムス『予言集』初期版に関する文献学的諸問題の検討」では、1555年版、1557年版、1568年版の関係が詳しく検討されています。
特に重要なのは、第8~10巻がノストラダムスの生前に刊行されたことを確認できる完全な原本が存在しないという問題です。
第8巻以降は死後の1568年版で確認できるため、どこまでが本人の原稿に基づくのかという疑問が残っています。
これは第10巻72番の解釈にも影響します。
原文の綴りが異なるだけでなく、そもそもどの版を基準に読むべきかという問題があるからです。
研究者にとって、予言の意味を考える前に、テキストそのものの成立を確かめることが欠かせません。
2026年にノストラダムスの予言を読む際の判断基準
現在、新たな予言や未来の災害とノストラダムスを結び付ける情報を見かけたときは、次のポイントを確認するとよいでしょう。
- 原文が存在するか: 本当に『予言集』に収録されている文章なのか。
- 出典となる版が明らかか: 1555年版、1557年版、1568年版など、どの資料に基づくのか。
- 翻訳が妥当か: 古語や地名を現代の意味だけで解釈していないか。
- 予言の時期が事前に特定されていたか: 出来事が起きてから意味を当てはめていないか。
- 反対の証拠も検討されているか: 一致した部分だけを取り上げていないか。
こうした判断基準を使えば、歴史的な予言文学としての面白さを楽しみながら、根拠の乏しい終末説に振り回されずに済みます。
【ノストラダムスの大予言内容】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:ノストラダムスは1999年7月に人類滅亡を予言したのですか?
A1:第10巻72番には「1999年、7の月」という表現があります。しかし、原文には人類滅亡を直接示す言葉はありません。1999年7月の人類滅亡説は、五島勉の1973年刊行書などを通じて日本で広まった解釈です。
Q2:恐怖の大王の正体は結局誰だったのですか?
A2:確定した人物はいません。一般には終末をもたらす存在と解釈されてきましたが、近年の研究ではカール5世や天使教皇などに結び付ける説も検討されています。「恐怖の大王」自体の原文の読み方にも議論があります。
Q3:アンゴルモアの大王はチンギス・ハンですか?
A3:有力な文献学的解釈ではありません。アンゴルモアはフランスのアングーモワという地名の異表記と考えられ、フランソワ1世を指す可能性が高いとされています。
Q4:マルスとは火星のことですか?
A4:必ずしもそうではありません。ローマ神話の戦争の神マルスを指す場合は戦争の象徴となり、フランス語の3月を指す場合は、フランソワ1世の1526年3月の帰還と結び付けられます。
Q5:ノストラダムスの予言で実際に的中したものはありますか?
A5:アンリ2世の事故死やヒトラーの台頭など、歴史上の事件と結び付けられた詩はあります。しかし、事件が起きる前に特定の出来事を正確に予告していたと証明されたわけではありません。後世の解釈によって的中したように見える事例もあります。
Q6:2026年現在、ノストラダムスはどのように評価されていますか?
A6:16世紀の医師・占星術師・著述家としての歴史的研究が行われています。『予言集』は文学・思想・出版史・文献学の研究対象ですが、未来の出来事を科学的に予測できたという客観的な証拠は確立していません。
まとめ:【プロの結論】ノストラダムスの大予言は何を伝えているのか
ノストラダムスの大予言内容を理解するうえで、最も重要なのは、16世紀に書かれた原典と、1973年以降の日本で広まった解釈を区別することです。
第10巻72番には、確かに「1999年」「7の月」「恐怖の大王」「アンゴルモア」「マルス」という印象的な言葉が登場します。しかし、そこに人類滅亡が明確に書かれているわけではありません。
五島勉の『ノストラダムスの大予言』は、1999年という具体的な期限を与えることで、日本の出版史に残る社会現象を生みました。一方、現在の研究では、原文の異綴り、フランス王フランソワ1世の歴史、カール5世との関係、ノストラダムスの終末思想など、より複雑な背景が検討されています。
2025年に公開された鈴木大輔の研究も示すように、第10巻72番にはまだ検討すべき論点が残されています。2026年現在も、唯一の正解が確定したわけではありません。
予言を読み解くときに大切なのは、言葉の印象だけで未来を決め付けないことです。 原文、成立年代、翻訳、歴史的背景、そして事後的な解釈を一つずつ照合することが、予言の真相に近づくための最も確かな方法です。
ノストラダムスが残した最大の謎は、1999年に何が起きるかという問題だけではありません。なぜ数百年も前の曖昧な四行詩が、時代ごとに異なる恐怖や希望を映し出し、人々の記憶に残り続けているのか。その歴史こそが、2026年の今も研究する価値のあるテーマなのです。