サバクトビバッタはなぜ大群になる?2026年の発生状況と蝗害の全貌を徹底解説
サバクトビバッタは、普段は砂漠や半砂漠地帯でひっそりと暮らす昆虫でありながら、条件がそろうと数千万匹規模の巨大な群れを形成し、農作物や牧草地を広範囲に食い荒らすことで知られている。2020年にはアフリカ東部を中心に大規模な蝗害(こうがい)が発生し、食料不足や農村地域の生活基盤を脅かす国際的な問題となった。
その異常な大発生を引き起こす鍵が、環境や個体密度に応じて行動・体色・生理的特徴を変化させる「相変異」だ。孤独相から群生相へと変わる仕組み、生息地と飛翔能力、2026年10月現在の発生状況、FAOや国際農研、京都大学に関係する研究まで、科学的な知見と最新の公的情報をもとに整理する。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 大発生の理由:大雨による繁殖環境の改善と、乾燥による個体の集中が重なることで群生相化が進む。
- 相変異の仕組み:低密度で互いを避ける孤独相が、接触刺激などを受けて集団を好む群生相へ変化する。
- 2026年の発生状況:FAOの最新情報では広域的な状況は落ち着いている一方、モーリタニアでは繁殖が続き、局地的な警戒が必要となっている。
- 農業被害:1平方キロメートルの群れには最大8000万匹が含まれ、1日で約3万5000人分に相当する食料を消費する可能性がある。
- 研究の最前線:国際農研はモーリタニアで野外生態や繁殖行動を調査し、早期発見と効率的な防除技術の開発を進めている。
【2026年最新】サバクトビバッタの現在の発生状況は?FAOの最新報告を検証

2026年10月31日現在、サバクトビバッタの発生状況を確認するうえで重要なのが、国際連合食糧農業機関(FAO)が運営する「Locust Watch」だ。同機関は各国から寄せられる現地調査の情報、気象データ、生息環境の変化、衛星画像などを組み合わせ、発生状況と移動・繁殖の見通しを公表している。
2026年9月の月次報告では広域的に落ち着いた状況
FAOの「Desert Locust Bulletin No.576」は、2026年9月の発生状況をまとめた最新の月次報告として、10月13日に公開された。
同報告によると、9月のサバクトビバッタの発生状況は、西部・中部・東部の3つの繁殖地域全体でおおむね落ち着いていた。西部地域では孤立した成虫が確認されたものの、広範囲にわたる大規模な群れが形成されている状況とは異なる。
一方、FAOのLocust Watchポータルに表示されている総合的な警戒区分は「Caution(注意)」となっている。この区分は作物への潜在的な脅威があり、監視の強化や必要に応じた防除が求められる状態を示す。
10月28日のモーリタニア報告が示す局地的なリスク
広域的には落ち着いていても、地域ごとの繁殖活動まで終わったわけではない。
FAOの農業・食料安全保障情報システムGIEWSが2026年10月28日を基準日に公表したモーリタニアの国別報告では、特に南部地域でサバクトビバッタの繁殖が続いており、今後も継続する見通しが示された。
さらに、11月にはタガント州、ブラクナ州、トラルザ州で幼虫や成虫の集団が形成される可能性があり、農作物への被害を防ぐために防除活動が必要になる場合があると予測されている。
つまり、2026年の状況は、2020年のような東アフリカから南西アジアに広がった大規模な発生と同一視できない。しかし、モーリタニアなど一部地域では繁殖環境が残っており、局地的な発生が再び拡大する可能性には注意が必要だ。
FAOの警戒区分は何を意味するのか
FAOはサバクトビバッタの発生状況を、農作物への脅威に応じて4段階に分類している。
- Calm(緑):作物への脅威はなく、通常の監視を継続する段階。
- Caution(黄):作物への潜在的な脅威があり、警戒強化が必要な段階。
- Threat(オレンジ):作物への脅威があり、調査と防除活動が必要な段階。
- Danger(赤):重大な脅威があり、集中的な調査と防除が必要な段階。
重要なのは、警戒区分が単なるバッタの数だけで決まるものではないことだ。繁殖状況、降雨、植生、移動経路、農業への影響などを総合的に判断する必要がある。
【大発生の理由】サバクトビバッタの生息地と分布、異常繁殖が起きる条件
サバクトビバッタの学名はSchistocerca gregaria。英名はDesert Locustで、バッタ科に属する代表的なワタリバッタの一種だ。
一般的なバッタとの大きな違いは、個体密度に応じて行動や生理的特徴を変え、集団で長距離を移動する能力を持つことにある。
生息地は西アフリカから中東、南西アジアまで
通常の生息域は、サハラ砂漠周辺の西アフリカから北アフリカ、中東、アラビア半島、インド・パキスタン国境付近に至る乾燥・半乾燥地域だ。
FAOによると、発生が比較的落ち着いている時期には、年間降水量が200ミリ未満の乾燥地域を中心に、およそ1600万平方キロメートル、約30か国に分布する。
しかし、大発生時には移動範囲が大きく広がる。FAOの資料では、発生地域が約2900万平方キロメートル、最大約60か国に及ぶ可能性が示されている。これは世界の陸地面積の20%を超える規模だ。
ここで注意したいのは、60か国すべてに常時生息しているわけではないという点である。普段から生息する地域と、大発生時に群れが侵入する地域は区別される。
大発生を招くのは大雨と乾燥が連続する環境変化
サバクトビバッタの異常繁殖には、単純な気温上昇や干ばつだけでは説明できない複数の環境条件が関係している。
通常、乾燥地帯では食料となる植物が少なく、バッタの個体数も比較的低く抑えられている。しかし、サイクロンなどによって大雨が降ると、砂漠や半砂漠地帯に植物が一斉に生え、繁殖に適した環境が生まれる。
水分を含んだ砂地は産卵にも適している。メスは湿った砂地に卵を産み、孵化した幼虫は周囲の植物を食べて成長する。
その後、雨季が終わって植生が減少すると、残された植物のある場所に多数の個体が集まり始める。そこで他個体との接触が増え、相変異の引き金となる刺激が繰り返される。
つまり、大雨が繁殖を後押しし、その後の乾燥が個体を集中させるという一見矛盾した環境変化が、大発生の重要な背景になっている。
繁殖スピードも個体数の急増を後押しする
FAOの解説では、条件が整った場合、サバクトビバッタの個体数は1世代ごとに約20倍になる可能性があるとされる。
3か月で20倍、6か月で400倍という増加が起こり得るため、発生初期の小さな集団を見逃すと、次の世代で大きな問題に発展する可能性がある。
卵は通常、砂地の地下10〜15センチメートル程度に産み付けられる。幼虫は5〜6段階の脱皮を経て成長し、成虫になるまでの期間は一般的に約30〜40日とされる。
発生を止めるためには、飛翔能力を獲得した成虫の大群が形成される前に、産卵場所や幼虫の集団を発見することが重要になる。
【相変異の仕組み】孤独相から群生相へ変わると何が起きるのか
サバクトビバッタを理解するうえで、最も重要な生物学的特徴が「相変異」だ。
相変異とは、周囲の環境や個体密度に応じて、同じ種類の昆虫が行動、体色、形態、生理的特徴などを変化させる現象を指す。サバクトビバッタは、この能力によって単独生活に適した状態から、集団移動に適した状態へと変わる。
孤独相は互いを避けながら生活する
個体密度が低い環境で育ったサバクトビバッタは「孤独相」と呼ばれる。
孤独相の特徴は、ほかの個体を積極的に避けることだ。移動や活動も比較的控えめで、周囲の植物や土壌に溶け込むような緑色系の体色を示すことが多い。
この段階では、大群を形成する性質が目立たず、一般的なバッタと大きく違わない生活を送っている。
群生相になると体色も行動も変化する
多数の個体が同じ場所に集まり、接触する機会が増えると、群生相化が進む。
群生相の幼虫は黄色と黒色が混じった目立つ体色になり、成虫も茶色や赤色、黄色などの特徴的な体色を示す。体の形態や翅と体の比率にも違いが現れる。
行動面では大きな変化が起こる。孤独相がほかの個体を避けるのに対し、群生相はほかの個体に引き寄せられ、集団を形成する傾向が強くなる。
この変化によって幼虫は集団で移動する群れを形成し、成虫になると広範囲を飛翔するようになる。
相変異のスイッチには接触刺激と神経伝達物質が関係する
では、何が群生相化のスイッチを入れるのか。
研究では、ほかの個体との物理的な接触が重要な刺激の一つであることが明らかになっている。特に後脚への繰り返しの接触刺激は、群生相化を引き起こす強い要因として研究されてきた。
さらに、視覚や嗅覚などの感覚情報も関係する。複数の刺激が神経系に伝わることで、行動の変化が生じる。
注目されている物質の一つがセロトニンだ。2014年に公表された研究では、個体の混み合いや後脚への刺激、セロトニンの作用によって、移動活動やほかの個体への誘引行動が数時間以内に変化することが示された。
ただし、相変異は単一の物質だけで説明できる現象ではない。感覚刺激、神経活動、遺伝子発現、生理的変化などが関係する複雑な適応反応として研究が続いている。
行動は数時間、体の形態は数日から数週間で変化する
相変異の興味深い点は、変化の速度が一様ではないことだ。
国際農研の解説によると、行動の群生相化は数時間で起こる場合がある。一方、体色や形態などの変化には数日から数週間を要する。
そのため、見た目は孤独相に近い個体でも、混み合いを経験した直後には群生相に似た行動を示すことがある。
相変異は固定された二つの状態ではなく、環境に応じて可逆的に変化する性質を持つ。孤独相と群生相の間には、中間的な特徴を示す個体も存在する。
この仕組みを理解することができれば、巨大な群れが形成される前に発生の兆候を捉えられる可能性がある。
【飛翔能力と蝗害】農業被害はなぜ食料危機につながるのか
サバクトビバッタが恐れられる理由は、単純に食欲が旺盛だからではない。大量の個体が集団を形成し、風を利用して長距離を移動しながら、農作物や牧草を食べ続けることにある。
1日に100キロメートル以上移動する飛翔能力
FAOの資料によると、サバクトビバッタの群れは風に乗って時速約16〜19キロメートルで飛翔する。1日の移動距離は通常5〜130キロメートル程度、条件によってはそれ以上になる。
FAOは好条件下で1日に最大約150キロメートル移動する能力も紹介している。
さらに、紅海を約300キロメートルにわたって横断することもある。過去には1954年に北西アフリカから英国諸島へ、1988年には西アフリカからカリブ海まで約5000キロメートルを10日ほどで移動した記録も紹介されている。
ただし、バッタが自由にどこへでも飛んでいけるわけではない。風向き、風速、気温、地形などに大きく左右される。変温動物であるため、低温になると長距離飛翔が難しくなることも知られている。
1平方キロメートルに最大8000万匹が集まる
FAOによると、サバクトビバッタの群れは1平方キロメートル未満の小規模なものから、数百平方キロメートル以上に広がるものまである。
その密度は非常に高く、1平方キロメートル当たり約4000万〜8000万匹の成虫が含まれる場合がある。
成虫1匹が1日に消費する植物は、およそ自身の体重に相当する約2グラムだ。これを群れ全体に換算すると、被害の規模が見えてくる。
1平方キロメートルに約4000万匹が集まった場合、1日に消費する植物の量は約80トンに達する。
FAOは、この量を人間の食料消費量に換算すると、約3万5000人分の1日分に相当すると説明している。
農作物だけでなく牧草地や家畜の飼料も被害を受ける
サバクトビバッタは特定の作物だけを食べる昆虫ではない。トウモロコシ、ソルガム、米、大麦、サトウキビ、野菜、果樹、牧草など、幅広い植物を食べる。
そのため、被害は農家の収穫量だけにとどまらない。
牧草地が失われれば、牛や羊、ヤギなどの家畜を飼育する牧畜民も影響を受ける。飼料不足は家畜の健康や市場価値を低下させ、農村地域の収入にも打撃を与える。
さらに、農作物の収穫減少と家畜の損失が重なると、食料価格の上昇、世帯収入の減少、食料へのアクセス悪化につながる。
つまり、蝗害は単なる害虫被害ではなく、農業生産、家畜飼育、地域経済、食料安全保障が連鎖的に損なわれる問題なのだ。
蝗害が発生しても、すべての地域で飢饉が起きるわけではない
ここで区別したいのが、農業被害と飢餓の関係である。
サバクトビバッタが発生したからといって、必ず国全体で飢饉が発生するわけではない。被害の程度は、農業への依存度、収穫時期、食料備蓄、輸入能力、物流、経済状況、紛争の有無などによって変わる。
特に、もともと食料不足や貧困に直面している地域では、収穫の減少が深刻な影響を与える。蝗害は既存の脆弱性をさらに悪化させる増幅要因として捉える必要がある。
【2020年のアフリカ大発生】FAO・国際農研・京都大学の研究を比較
サバクトビバッタの脅威が世界的に注目された大きな契機が、2019年から2021年にかけて続いた大発生だ。
2020年の大発生はなぜ深刻化したのか
2018年以降、サイクロンや大雨、洪水などによって、アラビア半島や東アフリカの一部に繁殖に適した環境が生まれた。
その後、複数世代にわたって繁殖が続き、サバクトビバッタの個体数が増加。2019年には紅海周辺から東アフリカへと発生地域が広がり、2020年にはエチオピア、ソマリア、ケニアなどで大きな農業被害が報告された。
FAOの資料では、エチオピアとソマリアでは少なくとも過去25年間で最悪級、ケニアでは約70年ぶりの深刻な発生と評価された。
さらに、2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大とも重なった。移動制限や物流上の問題によって、防除活動に必要な人員、資材、農薬などの確保にも困難が生じた。
FAOは2020年から2021年にかけて、各国政府や支援機関と連携し、発生の監視、農業生計の保護、防除活動の調整を進めた。同期間に約2億3050万米ドルの資金が動員され、対象地域では地上・航空による防除で約230万ヘクタールが処理された。
この対応によって大規模な発生は収束し、FAOは2021年末までの対応を総括している。ただし、発生そのものが永久になくなったわけではない。
国際農研が取り組む野外生態の解明
日本でサバクトビバッタの研究を進めている重要な機関が、農林水産省所管の国立研究開発法人「国際農林水産業研究センター」、通称・国際農研だ。
国際農研が重視してきたのは、実験室内の研究だけでは把握しきれない、実際の生息地におけるバッタの行動だ。
研究者はモーリタニア国立サバクトビバッタ防除センターなどと連携し、サハラ砂漠で野外調査を実施してきた。群生相の幼虫や成虫が、いつ、どこに集まるのかを明らかにすることで、防除の効率を高めようとしている。
特に注目されたのが、2021年10月に発表された繁殖行動の研究だ。
国際農研などの共同研究では、サハラ砂漠の野外調査から、成熟した成虫が雌雄どちらかに偏った集団を形成することを確認した。
日中、オスの集団に産卵直前のメスが飛来して交尾し、夕方以降にペアで集まり、夜間に集団産卵するという行動が明らかになった。
この知見から、オスの集団を見つけた段階ですぐに防除するのではなく、産卵が行われる時間帯を考慮して対策を講じる方法が提案された。行動の特徴を利用することで、必要以上に農薬を使用しない効率的な防除につながる可能性がある。
京都大学と前野ウルド浩太郎氏の研究活動
サバクトビバッタ研究で広く知られる研究者の一人が、昆虫学者の前野ウルド浩太郎氏だ。
前野氏は京都大学白眉センターの第5期研究者として、2014年4月から2019年3月まで在籍し、「アフリカにおけるサバクトビバッタの相変異の解明と防除技術の開発」を研究テーマとしていた。
西アフリカのモーリタニアを拠点に、サハラ砂漠で野外調査を行い、バッタの生態や集団形成の仕組みを追究した。
京都大学総合研究推進本部が2024年12月2日に再掲載した研究者紹介記事「Vol.2 サバクトビバッタを追って」では、2014年に公開された前野氏の研究活動が紹介されている。2024年に新たに発見された研究成果という意味ではなく、過去の研究活動を振り返る記事である点は押さえておきたい。
また、京都大学白眉センターの研究者紹介によると、前野氏は2026年9月7日に第19回日本学術振興会賞を受賞した。
研究者本人は、現地での調査に取り組んだ当時の思いを次のように表現している。
「いつの日か研究の力で一網打尽にしてやると誓いました。」
この言葉には、実験室での観察だけではなく、実際の砂漠でバッタを追跡しなければ分からない生態を解き明かそうとする研究姿勢が表れている。
研究機関と関連エンティティの関係一覧
| 主体・エンティティ | 主な役割・研究内容 | サバクトビバッタとの関係 |
|---|---|---|
| サバクトビバッタ | 学名 Schistocerca gregaria | 相変異によって孤独相と群生相を切り替える移動性害虫 |
| 孤独相 | 低密度環境に適応した状態 | 個体同士を避け、比較的単独で生活する |
| 群生相 | 高密度環境に適応した状態 | 他個体に引き寄せられ、群れを形成して移動する |
| FAO | 国際的な監視・予測・防除支援 | Locust Watchを通じて各国の発生情報と警戒情報を公表 |
| 国際農研(JIRCAS) | 野外生態・繁殖行動・防除技術の研究 | モーリタニアなどで調査し、効率的な予防的防除を研究 |
| 前野ウルド浩太郎氏 | 昆虫学・相変異・野外生態の研究 | 京都大学白眉センターで研究後、国際農研で研究活動を継続 |
| 京都大学白眉センター | 次世代研究者の育成・支援 | 前野氏が2014〜2019年に所属し、相変異と防除技術を研究 |
この関係から分かるのは、サバクトビバッタ対策が一つの研究分野だけで完結しないということだ。生物学的な相変異の解明、現地での行動観察、気象情報の分析、国際的な防除体制が連動して初めて、実際の被害軽減につながる。
【今後の対策】サバクトビバッタの大発生を防ぐ方法と残された課題
サバクトビバッタの防除で最も難しいのは、発生地域が広大であり、個体数が少ない段階では発見が困難なことだ。
大群が形成されてからでは、移動速度が速く、農作物への被害も急速に拡大する。そのため、発生後の駆除だけでなく、繁殖の初期段階で異常を察知する予防的な対策が重視されている。
FAOによる監視と早期警戒
FAOのDesert Locust Information Service(DLIS)は、各国から報告されるバッタの発生情報を集約し、気象条件や植生データなどと組み合わせて分析する。
その情報は月次の発生報告や予測として公開され、通常は最長6週間先までの地域別の見通しが示される。
大発生の兆候が確認された場合には、通常の月次報告に加えて注意喚起や追加情報も発信される。
幼虫の段階で発見することが重要
飛翔能力を持つ成虫の群れを追いかけるよりも、地上を移動する幼虫の集団を早期に発見するほうが、防除の効率を高めやすい。
幼虫はまだ長距離を飛べないため、発生場所を特定できれば、成虫になる前に対策を講じられる。
一方で、砂漠は非常に広く、道路や通信設備が十分に整っていない場所もある。地上調査だけで全域を監視することは難しく、衛星画像やドローンなどを利用した監視技術の活用が進められている。
農薬に依存しすぎない防除が求められる
従来の防除では殺虫剤が重要な役割を担ってきた。しかし、広範囲に農薬を散布すると、環境への影響や作業者の健康へのリスク、費用の増加などが問題になる。
国際農研が進める繁殖行動の研究は、バッタが集まる場所や産卵する時間帯を把握し、必要な場所に効率よく防除を行うための知見を提供している。
また、病原性のある微生物を利用した生物的防除なども、環境負荷を抑える手段として研究されている。
今後の研究で注目したい3つのポイント
- 相変異の予測:どのような密度や環境条件で群生相化が始まるのかを把握し、大群形成の前兆を捉えること。
- 繁殖場所の特定:産卵行動や幼虫の集合場所を理解し、成虫になる前に効率よく対策すること。
- 国際的な情報共有:バッタは国境を越えて移動するため、発生国と周辺国が気象情報や調査結果を共有し、迅速に対応すること。
サバクトビバッタの発生を完全にゼロにすることは簡単ではない。重要なのは、自然環境の中で起きる繁殖を継続的に監視し、被害が拡大する前に対応できる体制を整えることだ。
【プロの結論】サバクトビバッタ対策は駆除よりも発生予測が重要
サバクトビバッタの問題を考える際、巨大な群れの映像や被害の大きさだけに注目すると、本質を見失いやすい。
本当に重要なのは、なぜ群れが形成されるのか、どの環境で繁殖が進むのか、どの段階で防除すれば被害を最小限に抑えられるのかという一連の仕組みだ。
特に相変異の理解は、単に昆虫の不思議な生態を解明するための研究ではない。大群が形成される前の段階で危険を予測し、農薬の使用量を減らしながら農業被害を防ぐための実用的な研究でもある。
今後、サバクトビバッタの情報を確認するときは、次の3点を基準にすると状況を正確に理解しやすい。
- 発生地域が通常の生息域なのか、大発生による侵入地域なのか。
- 孤立した個体が確認されているのか、幼虫の集団や成虫の群れが形成されているのか。
- FAOの最新報告で、繁殖状況や今後の降雨予測がどのように評価されているのか。
この3点を確認すれば、単にバッタが見つかったという情報と、実際に農業被害へ発展する危険性を区別できる。
サバクトビバッタに関するよくある質問(FAQ)
Q1:サバクトビバッタはなぜ突然大群になるのですか?
A1:大雨によって植物が増え、繁殖が進んだ後、乾燥によって食料が残る場所に個体が集中することが大きな要因です。個体同士の接触刺激などを受けると相変異が進み、孤独相から群生相へと行動が変化します。
Q2:孤独相と群生相は別の種類のバッタですか?
A2:別の種類ではありません。同じサバクトビバッタが環境や個体密度に応じて行動、体色、形態、生理的特徴を変化させた状態です。
Q3:サバクトビバッタは1日に何キロメートル飛びますか?
A3:FAOによると、風に乗って1日約5〜130キロメートル、条件によってはそれ以上移動します。好条件では約150キロメートルに達することもあります。
Q4:サバクトビバッタの群れは何匹くらいいますか?
A4:群れの大きさによって異なります。FAOによると、1平方キロメートル当たり約4000万〜8000万匹の成虫が含まれる場合があります。
Q5:2026年現在もサバクトビバッタは大発生していますか?
A5:2026年9月のFAO月次報告では、3つの主要繁殖地域の状況はおおむね落ち着いていました。ただし、10月28日のモーリタニア国別報告では南部で繁殖が継続し、11月に一部地域で幼虫や成虫の集団が形成される可能性が示されています。
Q6:2020年のアフリカの大発生は終わったのですか?
A6:2020〜2021年に続いた広域的な大発生について、FAOは2021年末までの対応を総括し、収束したと報告しています。ただし、サバクトビバッタ自体が絶滅したわけではなく、その後も各地で局地的な発生が確認されています。
Q7:サバクトビバッタは日本にも飛来する可能性がありますか?
A7:理論上の可能性を完全に否定することはできませんが、通常の生息域は西アフリカから中東、南西アジアにかけてです。日本への飛来を差し迫った危険として示す公的な発生情報はありません。飛翔距離だけでなく、風向き、気温、地形、生息環境など複数の条件を考慮する必要があります。
Q8:国際農研はどのような研究をしていますか?
A8:モーリタニアなどで野外調査を行い、群生相のバッタが集まる場所や繁殖行動、産卵の仕組みなどを調べています。こうした研究を通じて、早期発見や農薬使用量を抑えた効率的な防除技術の開発を目指しています。
まとめ:サバクトビバッタの大発生を防ぐ鍵は相変異の解明と早期対応
サバクトビバッタは、環境の変化に応じて孤独相から群生相へと姿や行動を変える、非常に高い適応能力を持つ昆虫だ。
大雨による繁殖環境の改善、乾燥による個体の集中、接触刺激による群生相化、そして集団での長距離移動という複数の過程が重なることで、農業に深刻な被害を与える巨大な群れが形成される。
2020年から2021年にかけてのアフリカ・中東の大発生は、蝗害が食料安全保障や地域経済に与える影響の大きさを世界に示した。一方、2026年10月現在は広域的な発生状況が落ち着く地域もあるものの、モーリタニアなどでは繁殖が続いており、継続的な警戒が欠かせない。
FAOによる国際的な監視、国際農研による野外生態の解明、京都大学で進められてきた相変異研究は、それぞれ異なる角度から問題の解決に取り組んでいる。
サバクトビバッタ対策の本質は、大群になってから追いかけることではなく、大群になる前にその兆候を捉えることにある。相変異の仕組みを解き明かし、気象情報と現地調査を組み合わせた予防的な防除を実現できるかどうかが、将来の農業被害と食料危機を左右する重要な課題となっている。
主な根拠資料: FAOの2026年9月月次報告・10月28日モーリタニア国別報告、国際農研の研究解説・2021年研究成果、京都大学の研究者紹介、相変異に関する査読研究。