鞭打ちの刑とは?歴史・目的から2026年の実施国と国際人権問題まで徹底解説

目次

2026年現在、鞭打ちの刑は世界のすべての国で廃止されたわけではありません。アフガニスタンではタリバン復権後に公開の鞭打ち刑が増加し、マレーシアやシンガポールでは一般刑法に基づく身体刑が存続しています。一方、サウジアラビアでは2020年に刑罰の一部が廃止され、ブルネイではシャリア法に基づく鞭打ちの規定が刑法に残されています。

鞭打ち刑とは、犯罪や規律違反に対する制裁として、人の身体を鞭や棒などで打つ身体刑の一種です。その歴史は古代の法制度にまでさかのぼり、時代や地域によって刑罰の目的、法的根拠、執行方法は大きく異なってきました。

この記事では、鞭打ち刑の歴史や日本での廃止の経緯を整理したうえで、2026年10月時点のアフガニスタン、マレーシア、サウジアラビア、ブルネイなどの制度と執行状況を比較します。さらに、シャリア法との関係や国際人権法上の問題についても、公的資料や国際機関の報告をもとに解説します。

📌 【この記事の重要ポイントまとめ】 - 鞭打ち刑の歴史: 古代から存在する身体刑であり、日本では明治初期の刑法改革によって懲役刑への転換が進んだ。 - 2026年の実施状況: アフガニスタン、マレーシア、シンガポールなどでは身体刑が存続し、ブルネイやサウジアラビアにも法的な規定が残る。 - シャリア法との関係: 宗教法に基づく制度だけでなく、一般刑法に基づいて鞭打ち刑を設けている国もある。 - 国際人権の問題: 国連は身体刑を残虐、非人道的または品位を傷つける刑罰として問題視している。

【基礎知識】鞭打ちの刑とは何か?目的と刑罰としての特徴

鞭打ちの刑

鞭打ち刑の定義と種類

鞭打ち刑とは、刑事裁判などで有罪とされた人に対して、鞭や棒状の器具を用いて身体に打撃を加える刑罰です。

法律上は「身体刑」「体罰」「鞭打ち刑」「笞刑」などの言葉が使われます。ただし、これらは完全に同じ意味ではありません。

代表的な区分は次のとおりです。

- 鞭打ち刑(Flogging): 鞭などを用いて身体を打つ刑罰。
- 笞刑(Caning): 籐製の棒などを用いて打つ刑罰。
- 身体刑(Corporal Punishment): 身体への直接的な苦痛を伴う刑罰の総称。

例えば、マレーシアやシンガポールで行われる刑罰は、英語では主に「Caning」と呼ばれます。日本語では鞭打ち刑と訳される場合がありますが、実際には鞭ではなく棒を用いる制度です。

つまり、世界各国の制度を比較するときには、単純に「鞭を使うかどうか」だけでなく、刑具、法的根拠、執行主体などを区別する必要があります。

鞭打ち刑の目的は何だったのか

鞭打ち刑が歴史的に採用されてきた背景には、主に次のような目的があります。

1. 犯罪に対する応報

犯罪によって社会秩序を乱した者に、身体的な苦痛を与えることで責任を取らせるという考え方です。

2. 犯罪の抑止

刑罰を受けることへの恐怖を通じて、本人や周囲の人々が犯罪を避けるよう促す目的があります。

3. 社会規範や宗教的規律の維持

宗教法や伝統的な道徳規範に基づき、特定の行為を禁止するための制裁として使われてきました。

4. 公開による威嚇と見せしめ

公開の場で刑罰を執行することで、社会全体に国家や司法権力の存在を示す役割も担っていました。

ただし、これらは制度を採用する側が掲げてきた目的です。鞭打ち刑が犯罪を減らすうえで、他の刑罰より優れているということを一律に証明するものではありません。

また、身体への損傷だけでなく、精神的苦痛、社会的な stigma(烙印)、公開処罰による屈辱なども問題になります。

鞭打ち刑と一般的な懲役刑の違い

比較項目 鞭打ち刑 懲役・拘禁刑
主な制裁 身体への直接的な苦痛 身体の自由の制限
執行方法 鞭や棒などによる身体刑 刑事施設への収容
歴史的な目的 応報・威嚇・規律維持 応報・隔離・改善更生
主な問題 身体的・精神的損傷 自由の制限、収容環境
現在の国際的評価 人権上の重大な問題がある 適正な手続きと人道的処遇が必要

鞭打ち刑の特徴は、刑罰の苦痛が受刑者の身体に直接加えられる点です。これが現代の人権基準との大きな衝突を生んでいます。

【歴史を解説】鞭打ち刑はいつから存在し、日本ではいつ廃止されたのか

古代から中世にかけての身体刑

身体刑は、近代的な刑務所制度が整備される以前から、世界各地の法制度で採用されていました。

古代社会では、自由刑や現在のような刑務所が十分に整備されていなかったため、身体への打撃や身体の自由を制限する刑罰が重要な制裁手段となっていました。

古代ローマでは、鞭打ちが刑罰や懲罰として使われ、身分によって適用される刑罰にも違いがありました。

東アジアでも、身体を打つ刑罰は長い歴史を持っています。

中国の律令制度では、笞や杖による刑罰が制度化され、日本にもその影響が及びました。

こうした刑罰は、単なる身体への制裁だけではなく、当時の国家が秩序を維持するための統治手段でもあったのです。

日本の鞭打ち刑の歴史と明治時代の改革

日本では、8世紀に成立した律令制度のもとで、笞・杖・徒・流・死という五つの刑罰体系が整えられました。

笞刑と杖刑は、身体に打撃を加える刑罰であり、中国の律令制度の影響を受けています。

江戸時代にも身体刑は存在しましたが、近代化が進む明治時代になると、刑罰制度の大幅な見直しが始まりました。

特に重要なのが、次の法制度の変化です。

- 1868年(明治元年): 仮刑律が制定され、旧来の刑罰制度の整理が始まる。
- 1870年(明治3年): 新律綱領が制定され、笞・杖などを含む刑罰体系が整備される。
- 1872年(明治5年): 懲役法によって笞杖刑を懲役刑に置き換える改革が進む。
- 1873年(明治6年): 改定律例が公布され、刑罰体系が再編される。
- 1882年(明治15年): 旧刑法が施行され、近代的な刑法制度への移行が進む。

ただし、懲役施設の整備が追いつかない地域では、移行期間中に従来の刑罰が残るなど、制度の変更と実際の運用には時間差がありました。

国立国会図書館の日本法令索引や法制史研究資料からも、明治初期に笞杖刑から自由刑への転換が進んだ経緯を確認できます。

日本では現在、鞭打ち刑は存在するのか

現在の日本の刑事司法制度には、犯罪に対する刑罰としての鞭打ち刑はありません。

明治初期の刑法改革によって身体刑から懲役刑への転換が進み、その後の近代刑法の整備によって、鞭打ち刑は日本の刑事罰の体系から姿を消しました。

この歴史から分かるのは、刑罰の近代化とは単に刑罰を軽くすることではないという点です。

身体への直接的な制裁から、自由の制限、社会復帰、再犯防止などを重視する制度へと、刑罰の考え方そのものが変わっていったのです。

【2026年最新比較】鞭打ち刑を認める国・地域と法律上の根拠

2026年10月現在、鞭打ち刑の法的な位置付けは国によって異なります。

特に重要なのは、次の3つを区別することです。

- 法律に刑罰として規定されているか。
- 裁判所が実際に判決を出しているか。
- 判決に基づく執行が現実に行われているか。

この3つは必ずしも一致しません。

主要国・地域の制度比較

以下は、代表的な国・地域について、法的根拠と執行状況を整理したものです。

国・地域 主な法的根拠 2026年時点の状況 アフガニスタン タリバンの司法制度、シャリア法の解釈、2024年の勧善懲悪法 公開の鞭打ち刑が継続。2025年に多数の執行が報告されている。 マレーシア 刑法、刑事訴訟法、州のイスラム刑事法 一般刑法上の鞭打ち刑が存続。2026年に連邦裁判所が合憲と判断。 サウジアラビア イスラム法に基づくハッド刑など 2020年にタージール刑としての鞭打ちを廃止。一部のハッド刑には規定が残る。 ブルネイ 2013年シャリア刑法典 鞭打ちの規定が存続。シャリア刑法に基づく身体刑の執行実績には制約がある。 シンガポール 刑法、2010年刑事訴訟法 一般刑法上の鞭打ち刑が存続。詐欺関連犯罪にも適用が拡大。

この比較から分かるのは、鞭打ち刑を残している国が、必ずしも同じ宗教的・政治的背景を持っているわけではないということです。

マレーシアやシンガポールでは一般刑法が根拠となる一方、アフガニスタンやブルネイでは宗教法との関係が強く表れています。

【国別の実態】アフガニスタン・マレーシア・サウジアラビア・ブルネイの現状

1. アフガニスタン:タリバン復権後に公開処罰が拡大

人権上の重大な懸念

アフガニスタンの公開鞭打ち刑に関する報告

アフガニスタンでは、2021年8月のタリバンによる政権掌握後、宗教的な規範に基づく刑罰が再び強く打ち出されるようになりました。

タリバン当局は、イスラム法に基づく司法制度を運用し、婚外関係や飲酒などの行為を対象に、公開の身体刑を実施しています。

2024年8月には「勧善懲悪法(徳の普及と悪徳の防止に関する法律)」が公布されました。

この法律は35条からなり、女性の行動や社会生活に対する制限を含む幅広い規定を設けています。国連アフガニスタン支援ミッション(UNAMA)は、法律の運用が人々の基本的人権に及ぼす影響について懸念を表明しました。

2025年の執行状況も深刻です。

2026年に公表された国連専門家の報告によると、タリバンの事実上の最高裁判所は、2025年に少なくとも1,110人に対する公開鞭打ちを発表しました。

内訳は次のとおりです。

- 男性:少なくとも940人
- 女性:少なくとも170人
- 合計:少なくとも1,110人

2024年の少なくとも567人と比較すると、ほぼ倍増しています。

また、UNAMAが2025年中に記録した身体刑の対象者は943人です。

この数字はタリバン司法当局の発表と一致しませんが、集計主体や確認方法が異なるためです。どちらの資料も、身体刑が継続的に実施されていることを示しています。

さらに、アフガニスタン人権・民主主義機構(AHRDO)が2026年8月に公表した報告書では、2022年2月から2026年4月までに、公開鞭打ちの事例634件、対象者2,745人が記録されました。

同報告書は、公開処罰が単なる刑罰にとどまらず、社会的な威圧や統制の手段として使われていると分析しています。

2. マレーシア:一般刑法とイスラム法の両方に存在

マレーシアの鞭打ち刑は、宗教法だけに基づくものではありません。

一般刑法に基づく身体刑が存在するほか、イスラム教徒を対象とするシャリア法上の刑罰もあります。

一般刑法では、刑法や刑事訴訟法などに鞭打ち刑の規定があります。薬物犯罪や性犯罪など、複数の犯罪類型が対象となっています。

2025年には、アザリナ法制改革担当相が、義務的な鞭打ち刑の廃止を含む制度改革について検討していると明らかにしました。

政府の予備調査では、刑法の57規定に鞭打ち刑が定められ、そのうち26の犯罪類型で義務的な鞭打ち刑が規定されていると説明されています。

さらに、2026年4月22日には重要な司法判断がありました。

マレーシア連邦裁判所は、鞭打ち刑の合憲性を争った受刑者3人の再審査申立てを、2対1の多数決で退けました。

つまり、2026年時点では一般刑法に基づく鞭打ち刑は廃止されていません。

この事件では、2024年にポコクセナ刑務所で鞭打ち刑を受けた受刑者が死亡した問題も争点となりました。死亡診断書には臀部への鈍的外傷に関連する敗血症が記載されており、マレーシア人権委員会(SUHAKAM)も傷の感染と医療対応の問題を指摘しています。

一方、シャリア法に基づく鞭打ち刑は、一般刑法とは異なる司法制度のもとで運用されます。州や連邦直轄領によって関連法令が異なる点にも注意が必要です。

3. サウジアラビア:2020年に刑罰の一部を廃止

サウジアラビアは、イスラム法と刑事司法制度の関係を考えるうえで重要な事例です。

2020年、サウジアラビア最高裁判所は、裁判官の裁量によって科されるタージール刑としての鞭打ち刑を廃止し、拘禁刑や罰金などに置き換える方針を示しました。

これは同国の刑罰制度における大きな変更です。

ただし、鞭打ち刑が全面的に廃止されたわけではありません。

米国国務省の宗教自由に関する報告書では、次の3種類のハッド刑について、鞭打ち刑が残る可能性が指摘されています。

- 飲酒に関する犯罪
- 婚姻関係にない男女間の性的行為
- 姦通に関する虚偽の告発

ここで重要なのは、タージールとハッドの違いです。

タージールは裁判官の裁量による刑罰であるのに対し、ハッドはイスラム法上、特定の犯罪に対して定められた刑罰を指します。

したがって、2020年の改革は鞭打ち刑の全面廃止ではなく、適用範囲を大きく変更した制度改革として理解する必要があります。

4. ブルネイ:シャリア刑法典に身体刑の規定が残る

ブルネイでは、2013年に制定されたシャリア刑法典(Syariah Penal Code Order 2013)が重要な法的根拠となっています。

この法律は段階的に施行され、2018年には改正も行われました。

規定には、イスラム法上の犯罪に対する鞭打ちなどの身体刑が含まれています。

特徴的なのは、シャリア刑法典がイスラム教徒だけでなく、一定の例外を設けながら非イスラム教徒にも適用される規定を持つことです。

米国国務省の2023年人権報告書によると、同年、シャリア刑法典に基づく身体刑や死刑は判決として科されず、執行もされませんでした。

つまり、法律に規定が残っていることと、実際に刑罰が執行されていることは別問題です。

なお、ブルネイには一般刑法上の鞭打ち刑も存在します。シャリア刑法典に基づく刑罰と、一般刑法に基づく刑罰を混同してはいけません。

5. シンガポール:宗教法ではなく一般刑法による鞭打ち

鞭打ち刑が宗教法に基づく国だけに存在するという理解は正しくありません。

シンガポールでは、一般刑法に基づくCaningが現在も刑罰として残されています。

刑事訴訟法2010年法では、鞭打ち刑を受けることができない対象者として、女性や50歳を超える男性などが規定されています。

また、裁判所が命じる鞭打ち刑は、成人について一度に最大24打という上限が設けられています。

さらに2025年11月に成立した刑法改正法によって、詐欺関連犯罪にも鞭打ち刑が導入されました。

2025年12月30日から、詐欺を実行する者や犯罪組織のメンバー・勧誘者には、6打以上24打以下の義務的な鞭打ち刑が適用される制度となっています。詐欺に関与する資金洗浄などの仲介者にも、最大12打の裁量的な鞭打ち刑が設けられました。

この事例は、鞭打ち刑がシャリア法だけの問題ではなく、一般刑法上の犯罪抑止政策としても利用されていることを示しています。

【シャリア法との関係】宗教法に基づく鞭打ち刑の仕組みと各国の違い

シャリア法とは何か

シャリア法とは、イスラム教の聖典であるクルアーンや預言者ムハンマドの言行などを基礎とするイスラム法の総称です。

イスラム法には、宗教的な義務、生活上の規範、家族法、商取引、刑事法など幅広い領域が含まれます。

ただし、世界のイスラム教徒が同じ刑罰制度を採用しているわけではありません。

各国の法制度、宗派、法学派、政治体制、宗教的解釈によって運用は異なります。

ハッド・キサース・タージールの違い

イスラム刑法を理解するうえで、代表的な3つの概念を知っておくと役立ちます。

ハッド(Hudud)

イスラム法において、特定の犯罪に対して定められた刑罰を指します。適用条件や証拠に関する要件は、法学派や各国の法制度によって異なります。

キサース(Qisas)

同害報復を意味する概念です。殺人や身体への傷害などに関係する制度で、被害者側の権利や賠償などとも関連します。

タージール(Ta'zir)

裁判官などの裁量によって科される刑罰です。固定された刑罰ではなく、各国の法律や司法判断によって内容が異なります。

この違いは、サウジアラビアの2020年改革を理解する際にも重要です。

同国が廃止したのはタージールとしての鞭打ち刑であり、ハッド刑に関する規定まで全面的に廃止したわけではありません。

シャリア法がある国はすべて鞭打ち刑を実施しているのか

答えは明確に「いいえ」です。

イスラム教を国教とする国であっても、鞭打ち刑を採用していない国があります。

また、イスラム法を司法制度に取り入れている国でも、一般刑法と宗教法をどのように分担させるかは異なります。

アフガニスタンではタリバン当局によるシャリア法の解釈と司法運用が公開身体刑につながっています。

マレーシアでは、一般刑法と州ごとのイスラム法制度が並存しています。

ブルネイではシャリア刑法典が制定されていますが、法律上の規定と実際の執行状況には差があります。

こうした違いを無視して「イスラム教の国だから鞭打ち刑がある」と一括りにするのは、法制度を正しく理解するうえで適切ではありません。

【国際人権の視点】鞭打ち刑はなぜ問題視されるのか

国際人権規約第7条と身体刑

鞭打ち刑をめぐる国際的な議論の中心にあるのが、拷問や残虐な刑罰を禁止する国際人権基準です。

特に重要なのが、国際人権規約の一つである「市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)」第7条です。

同条は、拷問や残虐、非人道的または品位を傷つける取扱い・刑罰を禁止しています。

国連人権委員会の一般的意見第20号(1992年)は、この禁止について身体的苦痛だけでなく精神的苦痛も対象とし、犯罪に対する懲罰としての身体刑も禁止の範囲に含まれると説明しています。

また、拷問等禁止条約第16条も、拷問に該当しない残虐、非人道的または品位を傷つける取扱いや刑罰の防止を締約国に求めています。

国連が指摘する鞭打ち刑の問題点

国際社会が鞭打ち刑を問題視する理由は、単純に身体的な痛みだけではありません。

主な論点は次のとおりです。

身体の完全性を侵害する問題

国家が刑罰として身体に苦痛を与えることは、人間の尊厳や身体の安全に関する権利と衝突します。

精神的な苦痛と屈辱

公開処罰の場合、本人や家族に対する社会的な烙印、心理的な負担、周囲からの差別につながる可能性があります。

適正手続きの問題

公正な裁判が確保されなければ、誤った判決によって回復困難な身体的被害が発生するおそれがあります。

女性や少数者への不平等

特定の行為を犯罪とする制度が、女性や性的少数者などに不均衡な影響を及ぼす場合もあります。

アフガニスタンの鞭打ち刑に対する国連の見解

2026年に公表された国連専門家の声明では、アフガニスタンにおける公開身体刑の増加について強い懸念が示されました。

国連専門家は、身体刑が人間の尊厳と身体の完全性を侵害し、その程度によっては残虐、非人道的もしくは品位を傷つける刑罰、さらには拷問に該当すると指摘しています。

この見解は、宗教的な根拠を掲げる刑罰であっても、国際人権基準との整合性が問われることを示しています。

鞭打ち刑をめぐる国際的な議論の本質

ここで重要なのは、各国の国内法で合法とされていることと、国際人権法上問題がないことは同じではないという点です。

ある国の議会や裁判所が鞭打ち刑を認めていても、その制度が国際的な人権基準に適合するとは限りません。

逆に、法律に刑罰の規定が残っていても、実際に執行されていなければ、現実の人権侵害の規模を評価する際には区別が必要です。

法律上の存続、司法判断、実際の執行、人権上の評価を別々に確認することが、国際比較の基本になります。

【よくある質問】鞭打ちの刑に関するFAQ

Q1:2026年現在、鞭打ち刑を実施している国はどこですか?

アフガニスタン、マレーシア、シンガポールなどでは、鞭打ちや棒による身体刑が実際に行われています。ブルネイやサウジアラビアにも関連する法的規定が残っています。ただし、法律上の規定と実際の執行状況は国ごとに異なります。

Q2:日本では鞭打ち刑はいつ廃止されましたか?

日本では明治初期に笞杖刑から懲役刑への転換が進みました。1872年の懲役法や1873年の改定律例などが重要な転換点です。現在の日本の刑事司法制度には鞭打ち刑は存在しません。

Q3:サウジアラビアでは鞭打ち刑が完全に廃止されたのですか?

完全廃止ではありません。2020年にタージール刑としての鞭打ちが廃止され、拘禁刑や罰金などに置き換えられました。一方、一部のハッド刑には関連規定が残ると米国国務省の報告書が指摘しています。

Q4:鞭打ち刑はすべてシャリア法に基づいているのですか?

いいえ。マレーシアやシンガポールでは、一般刑法に基づく鞭打ち刑があります。シャリア法を採用する国と、一般刑法で身体刑を定める国では、法的根拠や適用対象が異なります。

Q5:ブルネイでは実際に鞭打ち刑が執行されていますか?

ブルネイのシャリア刑法典には鞭打ち刑の規定があります。ただし、米国国務省の2023年報告書では、同年にシャリア刑法典に基づく身体刑は判決として科されず、執行もされなかったと報告されています。法律上の規定が残ることと実際の執行は区別する必要があります。

まとめ:鞭打ち刑の現在と今後の国際的な課題

鞭打ちの刑は、古代から続く身体刑の一種であり、歴史的には犯罪への応報、抑止、社会規律の維持などを目的として採用されてきました。

しかし、近代刑事司法の発展とともに、身体に直接的な苦痛を与える刑罰から、拘禁刑や罰金などを中心とする制度への転換が進みました。日本も明治初期の刑法改革を通じて、この流れの中で身体刑を廃止しています。

一方、2026年現在も世界の一部では鞭打ち刑が存続しています。

アフガニスタンでは公開処罰が拡大し、マレーシアでは一般刑法上の鞭打ち刑が司法判断によって維持されています。サウジアラビアは2020年に適用範囲を縮小しましたが、一部の宗教法上の規定が残っています。ブルネイでもシャリア刑法典に関連規定が存在します。

【プロの結論】鞭打ち刑を理解するための3つの判断基準

1. 法律に存在することと、実際に執行されることを区別する

ブルネイやサウジアラビアの事例が示すように、刑罰の法的存続だけでは現実の執行状況は判断できません。判決件数や執行件数など、実際の記録を確認することが必要です。

2. 宗教法と一般刑法を混同しない

マレーシアやシンガポールのように、一般刑法に身体刑を設けている国もあります。宗教的背景だけで各国の刑罰制度を説明することはできません。

3. 国内法の合法性と国際人権基準を分けて考える

国内法に規定されていることは、その刑罰が人間の尊厳や身体の完全性を尊重していることの証明にはなりません。国際人権規約や拷問等禁止条約などとの整合性も重要な判断材料です。

鞭打ち刑をめぐる問題は、単なる歴史的な刑罰の残存ではありません。国家の刑罰権、宗教的価値観、犯罪抑止政策、そして人間の尊厳という複数の問題が交差するテーマです。

今後も各国の法改正、裁判所の判断、国連による人権調査を継続的に確認することが、世界の刑罰制度の変化を正しく理解するうえで重要になります。