【まず知っておきたい】聴神経腫瘍とは?耳鳴りが起こる原因と仕組み

目次

聴神経腫瘍は、耳から脳へ音や平衡感覚の情報を伝える第8脳神経に発生する腫瘍です。医学的には前庭神経鞘腫と呼ばれ、ほとんどが良性で、比較的ゆっくり成長する特徴があります。

名前に「聴神経」とありますが、実際には平衡感覚を担当する前庭神経から発生するケースが大部分です。

この神経の周囲には、音を伝える蝸牛神経や顔面神経なども走っています。そのため、腫瘍が成長すると、聞こえ方だけでなく、耳鳴りやバランス感覚にも影響が及びます。

耳鳴りが発生するメカニズム

聴神経腫瘍耳鳴り特徴

聴神経腫瘍による耳鳴りには、聴覚情報の伝達経路が障害されることが関係しています。

通常、耳の内部で受け取った音の情報は、蝸牛神経を通って脳へ伝わります。しかし、神経の近くに腫瘍ができると、神経が圧迫されたり、正常な情報伝達が妨げられたりします。

こうした聴覚経路からの入力の変化によって、実際には音が鳴っていないのに音を感じる耳鳴りが生じると考えられています。

耳鳴りの発生には聴覚神経から脳に至る複雑な仕組みが関係しており、腫瘍があるからといって、必ず同じ音が聞こえるわけではありません。

前庭神経鞘腫と聴神経腫瘍は同じ病気?

基本的には同じ病気を指す名称です。

従来から一般向けには聴神経腫瘍という名称が広く使われていますが、発生する神経の大部分が前庭神経であることから、前庭神経鞘腫という呼び方も定着しています。

2025年1月に公開された済生会の疾患解説でも、前庭神経から発生する良性腫瘍として説明されています。

なお、良性という言葉は、周囲の組織を圧迫しないという意味ではありません。大きくなれば脳幹などを圧迫する可能性があるため、適切な診断と経過観察が必要です。

【耳鳴りの特徴を解説】片側のキーンという音は聴神経腫瘍のサイン?

聴神経腫瘍による耳鳴りで注目したいのは、音の高さよりも、どちらの耳に発生しているか、聴力に左右差があるかという点です。

代表的なのは、腫瘍が発生した側の耳に現れる片側性の耳鳴りです。

1.片耳だけに耳鳴りが続く

聴神経腫瘍は通常、左右どちらか一方に発生します。そのため、腫瘍のある側の耳に耳鳴りや聴力低下が現れることがあります。

例えば、次のような変化です。

- 右耳だけにキーンという高い音が聞こえる
- 左耳だけジーという音が続いている
- 静かな場所で片耳の耳鳴りが気になる
- 片側の耳鳴りと聞こえにくさが同時に現れる
- 以前より片耳の音が聞き取りにくくなった

特に、片側の耳鳴りと左右の聴力差が重なっている場合は、耳鼻咽喉科で詳しい検査を受けることが大切です。

ただし、片側性の耳鳴りがあるからといって、必ず聴神経腫瘍というわけではありません。

2.「キーン」「ジー」「ザー」など音の種類は決まっている?

聴神経腫瘍に特有の音の高さや種類が医学的に確立されているわけではありません。

耳鳴りの感じ方には個人差があり、次のように表現されます。

- キーン:高音域の電子音のような感覚
- ジー:機械が動いているような連続音
- ピー:細く高い音が続く感覚
- ゴー:低く響くような音
- シー:空気が漏れるような音

こうした音の違いだけで腫瘍の有無や大きさを判断することはできません。

重要なのは、耳鳴りの発生時期、持続時間、片側か両側か、聴力低下を伴うかという情報です。

3.耳鳴りだけでも聴神経腫瘍の可能性はある?

耳鳴りだけが最初に気づく症状になることはあります。

聴神経腫瘍が小さい段階では、聴力低下が軽く、本人が難聴を自覚していない場合もあるためです。

米国国立衛生研究所の国立難聴・コミュニケーション障害研究所(NIDCD)も、片側性または左右差のある難聴、耳鳴り、平衡感覚の異常を初期のサインとして挙げています。

一方、腫瘍があっても症状が現れない人もいます。

つまり、耳鳴りだけだから腫瘍ではないとも、耳鳴りがあるから腫瘍だとも判断できません。

片耳の耳鳴りが長く続く場合は、聴力検査を受けて原因を調べることが適切です。

【症状を比較】進行性難聴・耳閉感・めまいとの関係

聴神経腫瘍では、耳鳴り以外にも複数の症状が現れることがあります。

特に注目したいのが、蝸牛神経と前庭神経への影響です。

聴神経腫瘍の代表的な症状と神経の関係

症状 関係する神経・部位 主な特徴
片側性耳鳴り 聴覚経路・蝸牛神経 腫瘍のある側に耳鳴りが現れることがある
進行性難聴 蝸牛神経 片耳の聞こえが徐々に低下する
耳閉感 聴覚系 耳が詰まったような感覚が生じる
めまい・ふらつき 前庭神経 平衡感覚が乱れ、歩行時に不安定になることがある
顔面のしびれ 三叉神経 腫瘍が大きくなり周辺の神経に影響すると現れる
顔面の動かしにくさ 顔面神経 進行した場合に顔の筋肉の動きに影響することがある

1.片耳の難聴が徐々に進行する

聴神経腫瘍で代表的な症状の一つが、一側性の進行性感音難聴です。

最初はわずかな聞こえにくさでも、時間が経過するにつれて左右の聞こえ方に差が出ることがあります。

具体的には、次のような変化が考えられます。

- 電話を片耳で聞くと、以前より音が小さく感じる
- 人との会話で片側からの声が聞き取りにくい
- 雑音のある場所で会話の内容を理解しにくい
- 音は聞こえるのに、言葉がはっきり分からない
- 片耳だけ高音が聞き取りにくくなる

特に注意したいのは、本人が難聴を自覚していなくても、聴力検査では左右差が確認される場合があることです。

片耳の聞こえ方が変わったと感じたら、耳鳴りの有無にかかわらず検査を受けることが大切です。

2.耳が詰まったような耳閉感

耳閉感とは、耳の中に何かが詰まっているように感じたり、耳に膜が張ったように感じたりする症状です。

聴神経腫瘍では、耳鳴りや難聴と一緒に現れることがあります。

ただし、耳閉感は聴神経腫瘍だけに見られる症状ではありません。

耳管機能障害、中耳炎、突発性難聴、メニエール病などでも発生します。

そのため、耳が詰まる感覚だけで原因を特定することはできません。

3.めまいやふらつきが起こる

前庭神経は、身体のバランスを保つために重要な役割を果たしています。

この神経に腫瘍ができると、平衡感覚に影響が出ることがあります。

ただし、聴神経腫瘍によるめまいは、必ずしも激しい回転性のめまいとは限りません。

むしろ、次のような症状として自覚される場合があります。

- 歩いていると身体が左右に揺れる
- まっすぐ歩きにくい
- 立ち上がったときにふらつく
- 身体のバランスが取りにくい
- 頭を動かしたときに違和感がある

片側の前庭機能が徐々に低下すると、反対側の前庭機能や脳がその変化を補うため、強いめまいを感じないこともあります。

したがって、めまいがないからといって聴神経腫瘍を否定することはできません。

4.進行すると顔面のしびれなども現れる

腫瘍が大きくなると、近くを通る三叉神経や顔面神経に影響する可能性があります。

その場合、顔の片側にしびれや感覚低下が起こったり、顔の筋肉が動かしにくくなったりすることがあります。

さらに大きくなると、脳幹や小脳を圧迫し、歩行障害や水頭症などにつながる可能性もあります。

こうした症状は初期の典型的なサインではありませんが、放置せず専門医による評価を受ける必要があります。

【他の耳鳴りとどう違う?】片側性耳鳴りの原因と見分け方

片側の耳鳴りが発生した場合、聴神経腫瘍以外の病気も考えられます。

耳鳴りはさまざまな原因で発生するため、音の種類や大きさだけでは区別できません。

主な原因と特徴

聴神経腫瘍

片側性の耳鳴りに、左右差のある感音難聴やふらつきなどが伴うことがあります。MRIによる画像検査が診断の中心です。

突発性難聴

突然、片方の耳が聞こえにくくなる病気です。耳鳴りや耳閉感、めまいを伴うこともあります。早期の診断と治療が重要です。

メニエール病

回転性のめまいを繰り返し、耳鳴り、難聴、耳閉感などを伴うことがあります。聴力が変動することも特徴です。

加齢性難聴・騒音性難聴

加齢や大きな音への長期的な曝露によって聴力が低下し、耳鳴りを伴うことがあります。

中耳炎・耳管機能障害

耳の炎症や耳管の機能異常によって、耳閉感や聞こえにくさ、耳鳴りが発生する場合があります。

血管性の耳鳴り

心拍に合わせてドクドク、ザーザーと聞こえる拍動性耳鳴りでは、血管に関連する原因も考慮されます。

聴神経腫瘍と突発性難聴の関係

特に注意したいのが、聴神経腫瘍と突発性難聴の関係です。

聴神経腫瘍は徐々に難聴が進行することが多いものの、突然聞こえにくくなる場合もあります。

そのため、初診時には突発性難聴と判断されることもあります。

日本聴神経腫瘍研究会の患者向けQ&Aでも、聴神経腫瘍による難聴は徐々に進行することが多い一方、突然発症する場合があると説明されています。

突発性難聴として治療を受けても聴力の改善が乏しい場合などには、聴神経腫瘍を含む別の原因について追加検査が検討されます。

突然の聞こえにくさを単なる耳鳴りや疲労として放置するのは危険です。

【検査・診断の流れ】聴力検査と造影MRIで何が分かる?

聴神経腫瘍が疑われる場合、耳鼻咽喉科で耳の状態や聴力を調べたうえで、必要に応じて画像検査を行います。

主な検査は聴力検査、平衡機能検査、MRIです。

1.問診と耳の診察

最初に、医師が耳鳴りや難聴の状況を確認します。

主に確認されるのは次の項目です。

- 右耳と左耳のどちらに症状があるか
- 耳鳴りがいつから始まったか
- 音が持続しているか、断続的か
- 聞こえ方に左右差があるか
- めまいやふらつきを伴うか
- 顔面のしびれなどがあるか

耳鏡などを使って外耳道や鼓膜の状態も確認します。

2.聴力検査

聴力検査では、音の高さや大きさによって、どの程度聞き取れるかを測定します。

代表的な検査は純音聴力検査です。

左右それぞれの聴力を測ることで、片側だけに聴力低下が起きていないか確認できます。

必要に応じて、次の検査も行います。

- 語音聴力検査:言葉をどの程度聞き取れるかを調べる
- 聴性脳幹反応検査(ABR):音刺激に対する聴覚神経から脳幹までの反応を調べる
- 平衡機能検査:前庭神経の機能や身体のバランスを調べる

聴力検査で左右差や感音難聴が確認された場合、腫瘍の可能性を含めて追加検査が検討されます。

3.造影MRI検査

聴神経腫瘍の診断で特に重要なのがMRIです。

造影MRIでは、造影剤を使用して内耳道や小脳橋角部などを撮影し、腫瘍の有無、大きさ、位置、周囲の神経との関係などを調べます。

小さな腫瘍はCTでは見つけにくい場合があるため、MRIが重要な役割を果たします。

日本聴神経腫瘍研究会の患者向けQ&Aでも、最終的な診断には造影MRIが必要と説明されています。

なお、造影剤を使用できるかどうかは、腎機能や過去の造影剤使用時の反応などを考慮して医師が判断します。

検査結果で何が分かる?

聴力検査とMRIでは、それぞれ確認できる内容が異なります。

聴力検査は耳の機能を評価する検査であり、MRIは腫瘍の存在や位置を画像で確認する検査です。

両者を組み合わせることで、聴力の状態と腫瘍の状態を総合的に評価できます。

MRIで腫瘍が疑われても、画像だけで他の種類の腫瘍と完全に区別できない場合があります。必要な診断や治療方針は、専門医が総合的に判断します。

【受診の目安と治療】片側の耳鳴りを放置してはいけない理由

片側の耳鳴りが続いている場合、まずは耳鼻咽喉科を受診することが基本です。

特に、聞こえ方の左右差や耳閉感、ふらつきなどが重なっている場合は、早めに相談してください。

こんな症状があれば耳鼻咽喉科へ

次のような症状がある場合は、受診を検討してください。

- 片耳だけの耳鳴りが長く続いている
- 片側の聞こえ方が以前と違う
- 耳鳴りと難聴が同時に起きている
- 片耳が詰まった感覚が続く
- 原因不明のふらつきがある
- 片側の耳鳴りが徐々に強くなっている

特に、突然聞こえが悪くなった場合は緊急性があります。突発性難聴などの治療が必要な病気も考えられるため、できるだけ当日中に耳鼻咽喉科を受診してください。

顔の麻痺やしびれ、急激な強いめまい、ろれつが回らないなどの神経症状がある場合は、救急受診が必要です。

聴神経腫瘍と診断されたら必ず手術する?

聴神経腫瘍と診断されても、すべての患者がすぐに手術を受けるわけではありません。

主な治療・管理方法には、次の3つがあります。

1.経過観察

腫瘍が小さく、症状や聴力への影響が比較的少ない場合には、定期的にMRIを撮影して大きさの変化を確認します。

腫瘍が大きくなっていないか、聴力が変化していないかを継続的に評価します。

2.手術

腫瘍が大きい場合や、脳幹への圧迫がある場合、症状が進行している場合などに検討されます。

腫瘍を摘出する際には、顔面神経や聴覚機能をできるだけ温存することも重要な課題です。

3.放射線治療

ガンマナイフなどの定位放射線治療によって、腫瘍の増大を抑える方法です。

手術とは異なり、腫瘍を物理的に取り除くのではなく、増殖を制御することを目的とします。

どの方法を選ぶかは、腫瘍の大きさや成長速度、年齢、聴力、全身状態などによって異なります。

耳鳴りは治療すれば消える?

気になる点として、腫瘍を治療すれば耳鳴りもなくなるのかという疑問があります。

日本聴神経腫瘍研究会の患者向けQ&Aでは、手術後に耳鳴りが改善または消失した人の割合は過去の報告で2~6割と幅があり、耳鳴りが変化しない場合も多いと説明されています。

つまり、腫瘍の治療と耳鳴りの改善は必ずしも一致しません。

治療の第一の目的は、腫瘍の増大による神経や脳への影響を抑えることです。

耳鳴りの改善だけを目的に手術を選択するのではなく、腫瘍の状態と治療のメリット・リスクを専門医と相談することが重要です。

【聴神経腫瘍による耳鳴りの特徴】に関するよくある質問(FAQ)

Q1:聴神経腫瘍の耳鳴りは必ず片耳だけに起こりますか?

A1:多くは片側に発生する腫瘍のため、耳鳴りも腫瘍のある側に現れる傾向があります。ただし、耳鳴りの有無や感じ方には個人差があり、症状だけで診断することはできません。

Q2:聴神経腫瘍は耳鳴りだけで難聴がない場合もありますか?

A2:あります。小さな腫瘍では聴力が正常に保たれていたり、難聴があっても本人が気づかなかったりする場合があります。片側性の耳鳴りが続く場合は、聴力検査を受けることが大切です。

Q3:片耳がキーンと鳴る場合、聴神経腫瘍の可能性は高いですか?

A3:キーンという音だけで可能性の高さを判断することはできません。耳鳴りには多くの原因があります。片側性の耳鳴りに難聴やふらつきが伴う場合は、耳鼻咽喉科で検査を受けてください。

Q4:聴神経腫瘍による難聴は徐々に進行しますか?

A4:一般的には片側の聴力が徐々に低下することが多いですが、突然難聴が起こる場合もあります。急な聴力低下は突発性難聴などとの鑑別も必要なため、早急な受診が必要です。

Q5:聴神経腫瘍は聴力検査だけで診断できますか?

A5:聴力検査だけでは確定診断できません。聴力検査や平衡機能検査で神経の機能を評価し、MRIで腫瘍の有無や位置を確認します。造影MRIが重要な検査になります。

Q6:聴神経腫瘍はCT検査で見つかりますか?

A6:大きな腫瘍はCTで確認できる場合がありますが、小さな腫瘍は見つけにくいことがあります。腫瘍を詳しく調べるにはMRIが適しています。

Q7:聴神経腫瘍は良性なら治療しなくても大丈夫ですか?

A7:良性でも、成長すると周囲の神経や脳幹を圧迫する可能性があります。小さい場合は経過観察が選択されることもありますが、定期的なMRI検査と専門医による管理が必要です。

まとめ:片側の耳鳴りと聴力の変化を見逃さないことが大切

聴神経腫瘍による耳鳴りで注目したい特徴は、腫瘍が発生した側の耳に耳鳴りや難聴が現れることです。

特に、片耳のキーンという音に加え、徐々に聞こえにくくなる、耳が詰まる、ふらつくといった症状がある場合は、聴神経腫瘍を含めた原因の確認が必要です。

一方で、耳鳴りの音の高さや種類だけでは、聴神経腫瘍とほかの耳の病気を区別できません。耳鳴りだけが初期の自覚症状になることもあります。

大切なのは、片側性の耳鳴りや聴力の左右差を軽視せず、耳鼻咽喉科で聴力検査を受けることです。必要に応じて造影MRIを行えば、腫瘍の有無や状態を詳しく調べられます。

2026年現在、聴神経腫瘍の治療では経過観察、手術、放射線治療など複数の選択肢があります。腫瘍が見つかった場合も、必ずしも直ちに手術が必要になるわけではありません。

片耳の耳鳴りが続いているなら、音の種類だけで自己判断せず、聴力の変化を確認することが早期発見への第一歩です。

参考にした主な医学資料

- 日本聴神経腫瘍研究会「患者さんのためのQ&A」:症状、検査、治療、術後の耳鳴りについて。
- 済生会「聴神経腫瘍」(2025年1月22日公開):初期症状、耳閉感、突発性難聴との関係、治療方針。
- 米国国立衛生研究所・NIDCD:前庭神経鞘腫の症状と診断。
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会:突発性難聴の症状と早期受診の重要性。
- MSDマニュアル:耳鳴りの原因と評価、片側性耳鳴りに対する画像検査の考え方。